Uターン後の未来/都会での経験を生かして地元で花咲くサロンづくり
独立開業を目指して、または親のサロンを継ぐために。地元へのUターンを迷っている人も多いのでは? お客さまがゼロからの新たなスタートは、美容師としての自信はあるとしても、やっぱり不安も大きいですよね。
そんなときはひと足先にUターンを経験した先輩美容師の声を聞いてみると背中を押してもらえるかもしれません。ここでは状況が異なる3人の、Uターン美容師のケースをお届けします。成功の秘訣は地元に寄り添いはしても、馴染みすぎないサロンづくりにあるようです。
CASE1:Uターンして独立開業。『banca.by FLOWERS』山田 紳さん
[山田 紳さんのUターンプロフィール]
東京・表参道の『FLOWERS』に勤めた後、2015年、34歳で地元の岩手県盛岡市にUターンし、ドッグサロン併設の美容室『banca.by FLOWERS』をオープン。スタート時は美容師1名、ドッグトリマー1名。FLOWERSの姉妹店として交流を保ちつつ、開業資金や経営面では完全独立の形態。
オープン1年目は常に攻めたヘアスタイルを提案!
-Uターンして独立開業するというのは、いつから考えていましたか?
30歳を過ぎた頃からです。それまでは忙しくしていて考えることもなかったですが、少し視野が広くなってきた時期だったのだと思います。ちょうどその頃、東日本大震災があったのも、考え始めるきっかけになりました。自分としては都会のほうが好きだし、Uターンするかどうかは悩みました。最終的に決め手になったのは、どこで自分の人生を終わらせるのかを考えたこと。そうなったときに、やっぱり独立は岩手でだな、美容を通じて地元に貢献していきたいなという思いに到りました。
-ドッグサロン併設の美容室は都内でも珍しいと思いますが、なぜそのような形態に?
都内で働いていると、時代の流れというのをすごくリアルに感じました。10年前に流行っていた美容室の中には今も人気のサロンもあれば、なくなってしまったサロンもある。アパレルブランドも同じで、ずっと人気のところもあれば、消えちゃったり、名前を変えて生まれ変わったブランドもある。そんな変化を見てきたので、時代に合わせて柔軟に変化し、対応できなければ生き残れないと思いました。
そこで美容を軸としながらも好きなことやモノと複合させて、自分にしかできない新しい美容の形を探ろうと。僕、犬がめっちゃ好きなんですね。そんな自分にしかできない美容室が、ドッグサロン併設という形だったのです。もちろん僕の仕事人生は美容ありき。その上で、フットワーク軽く、柔らかく、楽しんでやっていきたい。いろいろ考えた末、そういうふうに思うようになりました。
あとオープン前のリサーチで、盛岡はコンビニよりも美容室が多いというのがわかっていました。そういう環境で既存のサロンと戦うよりも、犬好きの一部の層をターゲットにしようというねらいもありました。1年目はドッグサロンの宣伝はまったくしなかったのですが、口コミが広がっていい感じになり始めています。
-美容室のほうもお客さまゼロからのスタートでしたよね。どうやってお客さまを増やしていきましたか?
ちょうどオープンの頃に中学の同窓会があったこともあり、ありがたいことに初月は宣伝せずに100人弱来店いただきました。2ヵ月目からは集客サイトも使いはじめました。
きてくださったお客さまには常に爪跡を残すつもりで、攻めたヘアスタイルを提案していました。悩んでいたら切るし、切らないんだったらインナーカラーなどヘアカラーデザインで攻めるという作戦。リスクはあるけれど切らない失客よりも、切って失客するほうがいいと思うんですね。「どこで切ったの?」と聞かれることで、サロンのことが広がればというねらいもありましたし、そのお客さまの日常が少し変わったらいいなって。ときどき「あ、攻めすぎたかも」と思うこともありましたね。でもおかげで今では新規のお客さまは、バッサリ切りたいという方ばかりです。
-デザイン力や提案力という部分で、東京での経験が役に立ったということでしょうか。
そうですね。上手さという面では、東京も地方も関係なく上手い美容師はいると思います。ただ技術でもデザイン提案でも引き出しの多さという部分で、東京での経験がすごく役だっているように感じています。いいものをたくさん見てきたし、審美眼の厳しいお客さまとも向き合ってきました。ここでもどんな方がいらしても落とし込みどころを見つけて、勝負できるという自信はあります。
盛岡には素材の良い人が多いんですね。でもちょっと保守的なところもあるので、新しい自分と出会ってもらうような、そこからカルチャーが生まれるようなサロンになって、地元に貢献していきたいです。
>CASE2:実家サロンの3代目としてUターン。『hull』濱田健太さん