あのカリスマも失敗してきた!? 有名美容師に聞く、「美容師人生史上、“最恐”エピソードとその教訓」前編―― ALBUM NOBUさん・ⅲ 寺村さん
憧れの美容師から、まさかの辛口コメント…! 正しく伝える発信の大切さを学んだ炎上事件とは? ―― ⅲ 寺村優太さん
ただ純粋に話したつもりが…webメディアの取材がきっかけで炎上状態に
6年前の24歳の頃、美容業界で炎上してしまったことがあります。
当時はTwitterで「365日真実のヘアケア」をテーマに、「トリートメントを繰り返しても、傷んだ髪が治るわけではない」「全体カラーを続けている限り髪は綺麗にならない」など、尖った内容を発信していました。はっきりと物申した内容が話題になり、一般の方からのフォローがどんどん増えてフォロワーは3万人にまで伸びました。それに伴ってwebメディアの取材も増えていきました。
反面、同業者からは嫌われてしまっていたんです。美容師にとって好ましくないような発信も多くあったのである程度は嫌がられるだろうと予想もしていましが、それでも伝えたいことがあったんです。それに、僕はまだ24歳で業界的には無名だったので、そこまで自身の一言に反響が生まれるとは思っていませんでした。
ところが、「美髪アドバイザー」として受けた取材記事の1つが、炎上につながってしまいました。アラサー世代が髪を傷ませないように気をつけるべきこととして全頭カラーを挙げたのですが、その際の「毎回毛先まで染めることを勧める美容師は、お客さまの髪の健康よりも自分の成績や店の業績を優先させているのではないでしょうか」という発言への反対意見を、airの木村さんがブログに書かれていたんです。
そのブログは瞬く間に拡散され10万アクセスに上り、ブログ内のコメント欄も盛り上がり、Facebookでは2,000イイネがつきました。Twitterで自分の名前やそのブログを検索すると300人以上の美容師さんたちがブログに賛同し、「寺村は終わったな」などの投稿も多数ありました…。
当時はお会いすることも叶わないような憧れの美容師さんからの反論と、想像もしていなかった勢いで多くの美容師さんから寄せられる批判に驚いた僕は、「これは業界から干されたなー」とかなり落ち込みました。「全世界から批判されている」と思うほど精神的に追い詰められ、後ろ指を刺されている気がして怖くて表参道をマスクなしでは歩けなかったこともありました。
正しいことを、正しく伝えるには「伝え方」が大切
それでも内容自体は間違っていないと思っていたので、発言を取り消しはしませんでした。
「大丈夫?」と心配して声をかけてくれる仲間や、「寺村の発信は放っておけないほど影響力があるってことだ! これはチャンスだ!」と背中を押してくれる人もいました。また、率直な意見を発信することでお客さまからの信頼を得られていたので、サロンワークへの悪い影響もありませんでした。仲間とお客さまの支えがあって、その後も一般の方々に役立つ情報を発信し続けました。「他人に合わせる人生より、他人を巻き込む人生にしたい!」と思って、必死で信念を貫いたようにも思います。
一方で、正しく伝えるために「敵を作らない発信の仕方」を考えるようにもなりました。
批判のなかには、後から振り返ると「長年カラーをやってきて自分のカラーに自信があるから、一括りにカラーを悪者にしないでほしい」といった、その人の信念があって言っている人もいました。どんなに僕が正しいと思っていても、それだけがすべての人にとっての正解ではないことだってあります。当時の僕の発言は、そういった他の人の信念を見ずに、自分の正しいと思うことを押し付けてしまっていたんですね。
自分の正しさは曲げない。だけど、反対の意見の人の考えも尊重する。そういう言葉選びを考えるようになりました。とにかく本を読み、Twitterの発信などもPDCAを回して少しずつ改善して、伝える技術を身につけていきました。
使う言葉が変わると、発信の内容も本当に伝えたいこと・ブラしてはいけないことがクリアになり、どの人にも1つの意見として届くようになります。「読みやすく、伝わりやすい」というだけで、コンテンツとしてのクオリティと発信者としての信頼度が上がるなと実感しました。
その結果、今では書籍の出版をいただけるほどに。学校では国語の成績が1だったほど文章を書くのが苦手だった僕が本を書いて、3万部も読んでいただけるようになるなんて…! あのときの炎上がなければ、たどり着けなかったかもしれないと思うと、今では転機だったなともポジティブに思います。
誠実に向き合えばこそ! 反論ブログを書いた有名美容師とも今では仲良しに
もう1つ学んだことがあります。誠実に発信を続け、誠実に人と向き合うことの大切さです。
炎上したとき、実は驚いた僕は自分の心を守るために批判の声をあげていた人たちのSNSアカウントをブロックしていました。その中には、最初にブログを書かれた木村さんもいます。
ところが、しばらくしたころ、周囲の仲間から「木村さんが寺村のことを褒めているよ」と聞くようになったんです。そこでブロックを解除して見てみると、「24歳の若さで堂々とSNSで発信している」「寺村のやっていることはすごいよね」といったことを言ってくださっていたんですよ。木村さんは僕がブロックしていることも知ってはいたようなのですが、気にかけてくださっていたんですね。
そこでTwitter上で「ありがとうございます」と返信をしてみました。それがきっかけで、一緒に飲みに行くことになりました。最初は「あのweb記事の発言とかって、炎上狙ってわざとやってるの?」なんて聞かれて、「そういうつもりはなく本当に正しいと思うことを話しているだけで」と誠実に1つ1つ話していくうちに「寺村くんはピュアなんだね」とおっしゃってくれて、今でもかわいがっていただいています。
もし炎上に怯んで発言をコロコロ変えていたら、きっと一緒に飲みに行くことも、仲良くなれることもなかったと思います。信念を貫きながら誠実に向き合う。そうしていったら、気がつけばたくさんの素敵な方々が僕の活動を応援してくれるようになりました。