いい本を読んで、逞しい想像力を育てる -boy 茂木正行さんの習慣 後編-
ヴィダル・サスーンのアートディレクターとしてロンドンを拠点に活躍し、帰国後boyを設立した茂木正行さん。boy独自のクリエイティブに徹底的にこだわる茂木さんは、「手を動かすだけが練習ではない」と言います。その心とは? インタビューは前・後編の2回。今回は後編です。
あなたは今日の自分にOKを出せるのか
アメリカの大御所ジャズシンガー、トニー・ベネット。その彼が本物のシンガーと認めていて、デュエットしたいと願ったのが、イギリスのエイミー・ワインハウス。当時25歳。『Amy』という彼女のドキュメンタリー映画のなかで、トニー・ベネットとデュエットを録音するシーンがあるんだけど、一緒に歌っているときに彼女は「ノー!ノー!」って言って。この音程じゃないと言って、歌うのをやめてしまいます。
彼女は彼を責めているんじゃないんですよ。自分が間違っているって言っているの。彼女には自分の基準がある。だから、自分でいい、悪いの確認ができるんですよ。
美容師だってそれと同じで、自分自身で確認できないといけないと思います。今日の自分にOKを出せるのか、それともNOなのか、とかね。店が流行っているからいいだろうとか、売上があがっているからいいだろうとか、そういうことではないんですよ。
自分で自分を確認できるようになるためには、五感でいろんなものを感じる習慣を持つことが大事。旅や食事、家庭、語学の勉強、美容以外のことも、全部つながっていきます。boyの美容師は、仕事も遊びも境界線はないの。なぜなら、全て自分の人生を高めるための時間だから。美容師というのは、手を動かすだけが仕事ではないんです。
「うまいcut」と「うまいcutをする人」。この2つは、美容師として全く違うと、美容師ではないboyの社長に教わりました。「うまいcutをする人」というのは、切っている時のお客さまと自分の距離間、髪の触り方、コームの動かし方、仕上げのアレンジ、すべてがリズムよく進んでいく。
お客さまの性格や仕草や顔の表情など、些細なことまで感じ取って、想像して、その人のためだけのcutをする。「うまいcut」というのは、深く考えずにcutだけという、ほとんどの美容師が落ち込む穴のようなもの。その穴の中には、お金はザクザクあるかもしれないけれど。