お客さまにマジックをかける美容師はタネを持っている -boy 茂木正行さんの習慣 前編-
ヴィダル・サスーンのアートディレクターとしてロンドンを拠点に活躍し、帰国後boyを設立した茂木正行さん。boy独自のクリエイティブに徹底的にこだわる茂木さんは、「手を動かすだけが練習ではない」と言います。その心とは? インタビューは前・後編の2回。今回は前編です。
マジシャンはなぜ自信満々なのか
帽子からハトを出したり、人を消したり、マジシャンは普通では起こり得ないことを、自信を持ってやっています。なぜ彼らが自信をもってできるのかといったら、マジックにはタネがあるから。マジシャンはタネを持っていて、何をしたらどうなるのか、全部頭のなかに入っています。
じゃあ、美容師はどうか。お客さま一人ひとりに、素敵にするマジックをかけるためには、やっぱりタネが必要なんです。
僕らの場合、ハサミを動かす前から、この人は、ここをこうしたらかわいくなる、ということが頭の中でクリアにイメージできています。その人の仕草や動き、風の中に立った時の髪のゆらめきや顔の表情までも。具体的にイメージができているから、まずは自分の頭のなかで、お客さまの髪をカットできる。そんなふうに頭の中で1回切っているから、完成図も段取りもより具体的になって見えている。つまり、お客さまを素敵にする確かなタネを持てる。それで僕らは自信を持って切ることができます。
美容師はただ手を動かせばいいわけじゃありません。ただハサミで髪を切るだけなら素人と同じ。タネを持たない美容師が増えていったら、美容の世界は終わっていくと僕は思う。