大事なことはすべて、お客さまに教えていただいた -ACQUA 綾小路竹千代さんの習慣 Vol.1-
-髪ではなく、心を切りました- 1997年、日本武道館で行われたヘアショーのラストに、1万8000人の聴衆に向け、名言を残した綾小路竹千代(あやのこうじ たけちよ)さん。その“美容道”の一部を、日本の全美容師に向けて話してくれました。全3回でお届けします。
ヘアショーだからって、モデルを泣かせていいのか?
京都で駆け出しの美容師をしていたころ、「偉い先生がヘアショーをやる」というので観に行ったことがありました。今でも忘れられないのですが、そのショーで髪をバッサリ切られたモデルさんが泣いていたんですね。
みんなは「すごい!」と拍手をしていたけど、「全然すごくない。泣いているモデルさんに誰も気づいていないのか?なんかおかしくないか?」と思いました。
自分がヘアショーをするんだったら、絶対にモデルさんを泣かすようなことはしない。でも、今の自分はステージの上に立てる立場ではない…。そんな怒りに近い感情に背中を押され、有名になるために京都から、裸一貫で上京しました。
最初の1カ月は、代々木公園で野宿。半年後、心配した母が訪ねてきたとき、その辺に生えていた蕗(ふき)を料理してもてなしたこともありました。息子を不憫に思ったのでしょうね。後日、お米券を送ってきたんです。
僕はそれを「俺の苦労の邪魔をするな!」と突き返しました。
有名になって本を書くときに、この苦しい経験は絶対に欠かせないと思っていたんです。周りからは破天荒に見えたかもしれませんが、僕からすれば「有名になる」という目的から、逆算してやっていたことでした。