人一倍、努力を続ける天才〜「EGO sette」豊田笑子さんの仕事の流儀
美容師という仕事にほこりを感じた瞬間
お客さまをある意味、友人のように考え、その方をしあわせにしたいという気持ちでいつも接しています。お一人おひとりの人柄にあった方法で、心を込めて、心地よい時間を過ごしていただきたいと思って接客をしています。
自然とお客さまへの思い入れも強くなり、お客さまの髪を泣きながら切ったこともありました。そのお客さま(Aさん・男性)は、奥さまと妹さん、妹さんの旦那さまと、家族ぐるみできてくださっていて、Aさんと妹さんを私が担当、奥さまと妹さんの旦那さまを吉田が担当していました。
あるとき、パタリといらっしゃらなくなり心配していたところ、半年ほどして奥さまが一人でいらして、Aさんが脳腫瘍の手術をされたと話してくださいました。その後は元気になり「どうしても豊田さんに切ってほしいと言っている」とのことで、私も、Aさんがご来店されるのを楽しみにしていました。
お元気と聞いていたので安心していたのですが、お会いしたときは、それまでとは違ったご様子で車椅子でいらしたAさんの姿に、思わず動揺してしまいました。そしてAさんを大変な思いで支えてこられたのであろう奥さまが、明るく振る舞っている姿を見て、涙が止まらなくなってしまったんです。「この人、髪を触らせるのは豊田さんじゃないとダメだと言って。看護士さんがカットしてくれると言っても、自分の足で美容室に行きたいからと断ったんですよ」とおっしゃっていました。気がつけば、ご本人も奥さまも、私も吉田も、その場にいた全員が泣いていました。
そこまで思い入れをもっていただけたことに、美容師という仕事は自分の想像している以上にお客さまと深く結びつき、人に影響を与える仕事なのだと誇りに感じました。
その他にも、ご自分の変化をよろこんで泣いて帰られる方、悩みを抱えて涙ながらにお電話してこられる方、「なんでもいいから整えてほしい。さわってもらうと気持ちが安らぐ」とおっしゃる方など、いろいろなお客さまがいらっしゃいます。美容師とは、本当に「髪を切る」だけの職業ではないと思っています。
お客さまの外面・内面ともに引き上げることを目指す
技術に自信がなければ、お客さまに「私に任せてください」とは言えません。私のこだわりは先ほど申し上げた「オリジナル・カルテ」だと思われることが多いのですが、こだわりは「高い技術力」であり、「お客さまがもっとも魅力的に見えるスタイルをつくること」「自分では気づいていない女度を高めること」です。
お客さまに最高のスタイルを提供するためには、表面的に整えるだけではなく、内面を整える力も必要です。女性はとくに、そのときの心の状態が表面に現れるもの。「こうしていきませんか?」と提案し、会話の中で、その方向に気持ちを高めていけるようにしています。
表面的・内面的にもトータルでお客さまを見て、その上で、その方に今、何が必要かを考えて施術を行います。必要と感じれば、メイクをさせていただくことも。そうしたときは料金はいただきません。
メイクをしたお顔を鏡で見て、みなさん、ハッとした表情をされますが、「私って、本当はこんないい感じだったんだ」とか「最近気持ちが落ちていたな、ちゃんとしなきゃ」などと感じられるのかもしれません。そうしたお顔をしていただけることに、やりがいを感じます。そこで何か気づきを得たお客さまが、その次の回でご提案したメイクをしてきてくださったこともあります。それを見て、こちらも「よし!」とさらにやる気がでますね。