Z世代カリスマ美容師の何苦楚魂(なにくそだましい)に火をつけたコトバ iki TENDOのコトダマ
何苦楚魂に火をつけた「スタイリストとしてはゴミ以下だよ」
大阪から上京し、渋谷にある繁盛サロンに入りました。集客力があるサロンだったため、お客さまの数が半端なく多く、しかもその数を2人のスタイリストで担当していました。1人が5つの予約枠を回すような状況で、スタイリストが2人だから一度に10人くらいのお客さまが来るわけです。当時アシスタントは僕だけだったので、一人でこれをこなしていました。頭をフル回転させて、優先順位をつけて、とにかく素早く動きまわっていたんですよね。我ながらよくやっていたと思います。
その後、スタイリストになったのですが、そのころはまだSNSもやっておらず自己集客が全くできませんでした。サロンの集客力があったので、お客さまは来てくれたのでそこそこの数はこなしていたのですが、僕の仕事に対する熱意が足りなかったんだと思います。先輩からは、「アシスタントとしては超一流だったけれど、スタイリストとしてはゴミ以下だよ」と言われたんです。多分、僕の性格を知っていたからその言葉を選んだと思いますが、普通それを言ったらパワハラですよね(笑)。でも、その言葉が、何苦楚魂に火をつけました。
「もうフリーのお客さまは受け付けません。すべて、自分の指名で埋めます」と宣言しました。結局、その月の指名売り上げは約15万円だったのですが…。
それでもめげずに終電まで街でモデルを探し、終電後は飲み屋でモデルを探し続けました。それでも見つからなかったらクラブに行ってみました。その結果、朝5時頃に家に帰り、7時には再び家を出るという生活を約1カ月間続けることに。でも、それが人生を変えるのだとしたら、やる価値があると思いませんか? 実際、ただの口だけ男になるのは嫌だったから、行動で示すことを決意したんです。
その甲斐あり、次の月には指名売上が180万円まで跳ね上がりました。そこから「ハンサムショート」でバズり、一気に上り詰めることができたんです。
「みんなTENDOみたいに強くないんだよ」価値観の押し付けを痛感
僕がikiを立ち上げたばかりのころは、今よりちょっと性格にトゲがあったと思います。というのも、もともと僕はかなりパワハラまがいのところで育ってきたし、そこで死ぬ気で努力してのし上がってきた経験が自分のプラスになっていると確信していました。だから正直、スタッフの姿を見て「もっとやればいいのに」と歯痒さを感じる気持ちもあったんですよ。
一緒に働いてくれていた店長は、普段僕が何を言っても共感してくれるタイプの人でした。その店長に「死ぬ気で頑張れば人生変わるのに、なんでみんなやらないんだろう。若いときしか体力がないのに」と言ったことがあったんです。すると、真顔で「みんなTENDOみたいに強くないんだよ」と言われました。
その言葉で、自分の物差しで測りすぎていたことに気づいたんです。自分の成功論を押し付けていたなと。
人の意見に耳を傾けたり、人の気持ちを考えないと人がどんどん辞めていくことにも気づきました。このままじゃ駄目だなと思ったあの時から、人の気持ちに寄り添えるようになったんです。
そうすると「自分が勝手に設定した限界を少し超えて頑張ってみよう」と思ってくれるスタッフも出てきました。今、ikiは最高にいい感じです!
- プロフィール
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iki代表/ TENDO
大阪府出身。大阪美容専門学校卒業後、大阪のヘアサロンでアシスタント経験を積んだのち上京。BELEZAにて圧倒的な努力の末、スタイリストデビュー。ショートカットに注力し「天道ショート」「ハンサムショート」を打ち出す。2018年3月にL.O.G by U-REALMに移籍。半年の準備期間を経て、表参道に「iki」を立ち上げたのち2年で買収し完全独立。新規の入客毎月200名以上。業界でも異例の85%以上のリピーター率を誇るサロンへ。
(文/外山武史 撮影/菊池麻美)
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