美容師のコトダマ オーストラリア滞在中に唱えた“継続は力”が、今も僕の成長を支えている。 ZACC raffinéスタイリスト伊藤塁さん

ヘアメイクに進むきっかけとなったDaniel Manziniとの出会い

 

 

現地では語学学校に通いながら英会話を学び、ホームステイ先でお世話になりました。けれど、ホームステイの期間は決まっていて、その後は全て自分で住む家も仕事も手配しなくてはいけません。まだ英語も満足に話せないのに、手探りで、住む家と仕事を探しました。とにかく動かないとホームレスになってしまうので必死でしたね。それまで甘い環境で育ってきた自分にとって初めての体験がたくさんありました。

 

人間は必死になればどんな環境でもやれるようになるものです。次第に友達も増えて、家と仕事を変えながら旅をするように過ごせるように。最初はシドニーを拠点にしていたのですが、東海岸を北上してケアンズという街に辿り着いたとき、イタリア人のDaniel Manzini(ダニエル・マンジーニ)と出会いました。

 

彼は今、世界的に活躍しているヘアスタイリストでハイブランドのコレクションなども担当しています。当時はイタリアでサロンをいくつか経営して成功していたのですが、一度仕事を落ち着かせて新たな自分探しの旅に出ていたようです。そこで意気投合して、彼の仕事を見せてもらい、それがヘアメイクの道に進むきっかけになりました。

 

 

帰国後にヘアメイクをするなら東京だということで、叔父から事務所を紹介してもらい活動をスタートさせました。オーストラリア滞在中からヘアメイクをスタートしたこの時期を振り返ると、いつも「継続は力なり」「努力は報われる」「チリも積もれば山となる」という言葉を心の中で唱えていました。昔からのお説教文句とも思われるようなその言葉が、その当時の自分には絵空事ではなく体に染みる言葉でした。そればなければ、中途半端なところで逃げ出したり、やりきらないまま終わったりしていたと思いますね。

 

ちなみに、オーストラリアにいる間、2度命の危険を感じる瞬間がありました。1回目は薬物中毒の人たちに追いかけられた時。2回目はバスの中で暴力事件に巻き込まれ、窓から飛び出して逃げたとき。当時ガリガリだった僕は、このままでは大切な人を守れないと思い、トレーニングを始めました。今も継続しているおかげで、ハードワークにも負けない身体が保てています。

 

有名女優からの「前髪切ってくれる?」のプレッシャーに押され美容室へ

 

 

オーストラリアでの経験から、結果が出るまでやり続けることを決めていた僕は、27歳までヘアメイク事務所に所属し、映画やコレクション、雑誌などさまざまな現場で経験を積み、ヘアメイクとしては順調なキャリアを歩んでいました。

 

ところがある現場で有名な女優さんを担当したときのこと。その女優さんは眉上のバングが印象的なスタイルをしていたのですが、こまめなメンテナンスが必要でした。そのため「前髪切ってくれる?」と依頼されたのです。女優さんのトレードマークであり、商売道具の一つである髪を切るのはとても勇気がいることでした。しかも僕は、美容専門学校で学んだ技術しかありません。でも断れなくて切ったんです。それがたまたま上手くいったので、ちょこちょこ依頼されるように。2カ月くらい、その女優さんとご一緒する現場だったからです。毎回、吐きそうなくらいに緊張しながらカットしていたのですが、なんとかやり切ることができました。

 

 

そのとき「ハッタリが通用しない世界まで来てしまった。本当に技術がないと生き残れない」と痛感。メイクは得意でしたが、ヘアの技術には自信がないので、先輩に相談したところ「一度美容師をやってみたほうがいいかもね」と言われたんです。それで先輩が勧めるまま、3社くらいヘアサロンを受けて、最初に面接をさせてくれたのがZACCでした。27歳でシャンプーもできない自分をよく採用してくれたと思います。

 

 

当然仕事ができないので20歳くらいの子にこき使われながらシャンプーを覚えて、「継続は力なり」を唱えて逃げずにやり続けました。その頃既に結婚していたので、妻からしたら「バイトより安い給料でどうするの?」って感じだったと思います。それから3年半でデビューしたのですが、当時としてはかなり早い方だったと思います。27歳で結婚し、30歳で子どもがいる僕のことを代表高橋が気遣ってくれたのかなと思っています。

 

 

デビュー後も大変でした。最初は全然売れなくて、毎日街で声をかけていたんです。でも絶対に結果を出してやると思っていました。SNSが普及し始めたところだったので、「これしかない」と思ってInstagramを始めて、結果が出るまでひたすら作品をアップし続けました。結果がでなくて途中でやめる人もいますが、途中でやめるから結果が出ないのだと思います。Instagramで集客できるようになり、サロンの売上でトップを獲るなど、結果につなげることができました。今度は「継続は力なり」を下の子たちに伝えていくことが僕の仕事だと考えています。

 

プロフィール
ZACC raffiné
スタイリスト/伊藤塁(いとう るい)

大阪府出身。ヘアメイクアップアーティストとして国内外で活躍した経験を経て27歳の時にZACCに入社、美容師としてのキャリアをスタート。30歳でスタイリストデビュー。Instagramでの集客に成功し、ヘアメイク動画やボブスタイルで多くの支持を集める。2022年2月現在、フォロワー数6万人超。

Instagram:@ruiito_official

 

 

(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)

 

 

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