美容師のコトダマ 美容師1年目、店長が言った「もう地元には帰るな」の意味 GALA 横藤田 聡さん

美容師3年目、メインアシスタントなのに仕事を断られる

 

 

美容師3年目に起きた事件も忘れられません。そのころ、僕は店長のメインアシスタントをしていました。ある時カラーを塗りながら、「カットが終わったら、すぐにお客さまのところに行かなきゃ」と思って、グローブを外して急いで行ったんですよ。そしたら店長に「入るな」と言われたんです。メインアシスタントなのに仕事を断られるなんて異常だから、フロアもザワつくし、空気も悪くなりました。

 

 

あとで店長に「何で入れてくれなかったんですか?」と尋ねたら、「お客さまに入るとき、手を洗わなかったでしょ。俺はどんなにお客さまを待たせてでも、手を洗ってからきてほしかった。ついでにコームを見せて。ほら、毛だらけ。そんなものでお客さまに触れないでほしいってことを俺は言いたいんだよ」って言ったんです。技術が速い、遅い、上手い、下手よりももっと大事なことあると、厳しい態度と言葉で教えてくれたんですよ。

 

何を提供するかも大事だが、誰が提供するのかはもっと大事

 

 

こんなこともありました。午前中に雨が降っていて、午後お客さまがきたときに「今日はお休みですか」って店長が聞いたんです。そうしたら「雨が降ったから草むしりしてきたの」ってお客さまがお話しされていたんですよね。そうしたら店長は「『戦火の馬』ですね」って言ったんです。何を言っているのか、僕にはさっぱりわからなかったけれど、お客さまは「よくわかるわね」っておっしゃったんですよね。

 

『戦火の馬』はスピルバーグの映画なんですが、雨が降ってぬかるんでいるときは草むしりがしやすいので、雨が降る中で草をむしっているシーンがあるんです。お客さまとそのワンシーンをネタに盛り上がれるなんて、接客の深みがすごすぎると思いました。これってお客さまとの関係性の上に成り立っている話で、それこそ上質なサービスだなと。

 

 

わずかな時間で、ディープなところまで入っていくその接客は、いい意味で水商売みたいだなと思ったんです。その美容師とお客さまとの間でしか成立しない、深い関係が構築されているし、僕が目指すべきもそこだと考えています。

 

僕はサロンの経営も、人と人の関わりで成り立つ商売。語弊を恐れず言ってしまえば、どこのサロンも技術の差はさほどないと思っています。それより、その技術を“誰が”提供するのかが大事。

 

水商売も同じじゃないですか。どこでも同じお酒は飲めるのに、どうしてそのお店を選ぶのかと言ったら、そこにいる人との関係性が心地いいから。たまに「次の店舗展開を考えていないんですか」って聞かれるんですけれど、僕は今の場所で、お客さまと濃密な関係をつくることが、一番大切だと思っています。

 

 

プロフィール
GALA 代表 横藤田 聡

2016年12月、28歳で【GALA】をオープン。streetとリンクしたスタイル、ハイトーン、バレイヤージュ等のデザインカラーで、都内のファッション、音楽、芸能関係等のお客様から多数の支持を集め、現在はサロンワークと並行して、雑誌の撮影、全国でカラーセミナーを展開中。

 

(取材/外山武史・撮影/菊池 麻美)

 

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