LECO代表 内田聡一郎×アーティスト tofubeats (後編) 一番「ベタ」なものは、いつでも最高のクオリティで出していけ ~Voicyスペシャル対談~

「自分の青さをログに残せっていうのが一つのメッセージかもしれない」(内田)

 

 

内田: 2020年代に入って、若い子たちが言いたいことも言いづらい世の中になっているじゃないですか。何をやってもログが残っちゃうし。どうしたらいいだろうね。

 

tofubeats: めっちゃ大変ですよね。学校でちょけてる(ふざけてる)のもTikTokにアップされたりしちゃうわけじゃないですか。それでいうと僕の黒歴史もネット上に残りまくっているんですけれど…でも、インターネットって記録が残っているから、自分が変わっていく様子がわかるんですよ。たとえば、中学生のときにつくった曲はどう考えてもゴミなんですよ。

 

内田: そうなんだ(笑)。

 

tofubeats: それを聴くと、自分は変わったんだなって感じるんですよね。

 

内田: 青い時代をログに残せっていうのが一つのメッセージかもしれないね。でもどうなんだろ。最近は音楽関係のツールも充実しているし、チュートリアルも豊富だから簡単に始められて、それなりものができるじゃないですか。この弊害みたいなものもあるんじゃないかと思っていて。

 

tofubeats: それに関しては、僕はいろんなことに入門したほうがいいと思っているんです。そこから真髄というか、本当の面白みに気づく人も出てくると思うから。ただ、付け焼き刃的なものが世間に評価されちゃうもどかしさはありますけれど。

 

内田: じゃあトーフくん的には高校生のトラックメーカーが、こんなのつくってみましたっていう音源をDMで送ってきたらそれは歓迎って感じなんだ。

 

tofubeats:そうですね。大体無視しますけど。

 

内田: あはは(笑)。

 

tofubeats: でもたまにこの人は違う気がすると思って返事することもあるんですよ。自分も昔は同じようなことをやっていたわけですし。リップスライムのラジオにデモ送って、番組でかかって嬉しいとかありましたもん。

 

内田: とにかく始めることが正義ってことだね。

 

tofubeats: 絶対それがいいと思います。始めないと何もわからないし、興味も湧いてこないと思いますね。

 

内田: トーフくんはまず始めてから10年以上続けてきたわけだけど、今課題に感じていることとかあるの?

 

tofubeats:  続けることの難しさは折に触れて感じていますね。全てが噛み合うことってやっぱり難しくて、結構頑張って曲をつくっても大人の事情でリリースできなくなっちゃうこともありますし。そうなった時にモチベーションを維持するのが難しいですよね。歳を重ねるごとにその想いが強くなるというか。

 

内田: キャリアもあるし「そのくらいは当たり前でしょ」って周りからも思われるし、評価も上々ではあるんだけど、「俺最強」みたいなテンションにはならない。

 

tofubeats: 出来高に関しても予想の範囲を超えてくれないっていうのはあって。それでも楽しみながらやっているほうだと思うんですけれどね。

 

「たとえ新鮮さはなくても、その人だけが出せる味はすっごい大事」(tofubeats)

 

 

内田: 直近の話なんですけど、業界誌で「あなたが今一番クリエイティブだと思う作品をつくってください」っていうお題があったのね。自由創作なんだけど、逆に難しいと感じたの。「何をしてもいいよ」って言われたら、出てこなかったんですよね。

 

tofubeats: 何でもいいって言われると難しいですよね。

 

内田: 結局7、8年前に自分が出した作品の再解釈みたいな感じで、セルフカバーをしたんですよね。結果として技術的にも洗練されたものができたと思うし、みんなもいいねって言ってくれたんです。でも、自分が新しいものを作り出した感は皆無だったんですよ。

 

tofubeats: 内田さんが新しさを感じない型(カタ)みたいなものが、実はすっごい大事だったりすることもありません? 料理なんかでも、その料理人にとってはいつでも出せる味なんだけれど、実はその人にしか出せない味だったりとか。特に音楽ってそういう傾向が強い気がしていて。本人は散々使っている音だから新しさはないんだけれど、実はその人にしかできない音だったりして、そこもまた難しいなと。

 

内田: ライブでもみんながお待ちかねの曲ってあるじゃないですか。でもあんまり今の気分じゃないってことはないですか。

 

tofubeats: 僕は師匠に「絶対にベタなやつをちゃんとやれ」って教わったんですよ。

 

内田 どういうこと?

 

tofubeats: 「ベタな曲をやるときはオリジナルバージョンをやらんかい」と。リミックスとかじゃなくて。僕だったら水星のオリジナルバージョンですけど、「いつでもこれができひんかったらあかんで」みたいな。水星もちょっとずつ作り変えているんですけど、わからないようにやっています。僕としてはやり慣れてて、「いつもやってるなぁ」なんて思うんですけれど、ライブの時は必ず初めてくる人がいるじゃないですか。そのことをいつも意識していますね。

 

内田: そこは使命感を感じてやっているんだ。

 

tofubeats: ただその一方で、いつも新しいものを出し続けたい。人間はその相反するものを持っていると思うんですけれど、どちらも出していくことが大事じゃないですかね。

 

内田: トーフくんは、今回の新譜でインストゥルメンタルのものもはじめて出したわけじゃないですか。もうめちゃくちゃヘビロテしました。

 

tofubeats: ありがとうございます。嬉しいです。コロナのせいでまだ1回も生でやれてないですけれど。

 

内田: 「SOMEBODY TORE MY P」はすげえ気持ちいいと思った。で、あれをつくった瞬間っていうのは水星の頃のtofubeatsのゾーンではない気がしていて。古き良きもの、自分が気持ちがいいと思っていたものを再解釈して、自分のフィルターを通して出してきているんじゃないですか? というか俺はそう感じたんですよ。

 

tofubeats: そうですね。それを自分がプレゼンすることによって、自分と同じものが好きだった人たちも報われるじゃないですか。

 

内田: ちょうど自分の壁を越えられないなぁって感じているときにあの曲聴いて「tofubeatsすげえな」って思ったんですよね。

 

tofubeats:いやーありがとうございます。でも内田さんは越えられないと思った壁、「実は越えていた」っていうこともあると思うんですよ。同じことを続けているように見えても、隠れていた何かを拾い続けているかもしれないので。DJでも同じスタイルで10年とか20年やっている人もざらにいるので、逆に自分はこれでいいのかなと思ったりもしますし。

 

>「結局、今できることしかできないけど、できることは意外と多い」(tofubeats)

Related Contents 関連コンテンツ

Guidance 転職ガイド

Ranking ランキング