朝日光輝さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第16回「太陽な人」
街のパーマ屋みたいな親密さで
そして、数年前。
久しぶりにお会いした朝日さんは、ご自身の店、TIMELESSで、さらにリラックスした姿で、私を迎えてくれました。
このサロン、何もかもが度肝を抜かれることばかりでした。
まずは、びっくりしたのが、アシスタントさんがいないこと。
シャンプーから仕上げまで、全部朝日さんがやっていたこと。
営業時間は不定、定休日も不定。
そしてなにより驚いたのが、サロンに電話がなかったこと。
ホームページにも電話番号が載ってなかった。ネット予約もできなかった。
つまり、このサロン、新規のお客さまが予約する手段がないわけで。
表参道のど真ん中で。
1日に30人、40人のカットをして、アシスタントを3人、4人と使い、1000万売り上げるという、今までの「トップ美容師の頂点」像をそもそも覆してしまう「リピーターだけが通える完全プライベートサロン」という考え方。
それを打ち立てたのが、朝日さんだったんですよね。
打ち合わせのとき、朝日さんはなにやらすごく素敵なマシンでコーヒーを入れてくれたんだけれど、それがすごく美味しくて、「本格的な味!」と言ったら、「ほら、俺、田舎のコーヒー屋の息子だから」と言っていた。
その言葉を聞いたとき「ああ、ここに朝日さんのDNAがあるんだなあ」と感じました。
美容業界のトップまでのぼりつめた朝日さんが行き着いた、このTIMELESSというサロンは、都会のラグジュアリーサロンというよりも、田舎の気兼ねなく顔を出せるパーマ屋みたいな感じだなって思ったから。
そういえば、ずっと昔、朝日さんに美容師になった理由を聞いたら「自分の天然パーマがすごいコンプレックスで。美容師になればなんとかできるかと思って」と、言っていたのを思い出す。
有名になりたいでも、スターになりたいでもなく、街のパーマ屋さんみたいに、親密に相談にのってくれる場所。朝日さんは、いま、そんな場所に「帰って」いったんだなあという気がしました。
これからの朝日さん。気になります。
TIMELESSのこれからも気になります。
朝日さんのことだから、ひょっとしたら、またみんながびっくりするようなことを(でも、本人は、すっごく自然に)、やっちゃうのかもしれない。
そのときは、また取材させてくださいね。
-Profile-
朝日 光輝(あさひ みつてる)
美容室airプロデューサー/TIMELESS オーナー
個々の頭の形や髪質に合わせて自然な魅力を引き出す高い技術で注目を集める。数々の有名女性誌の表紙やファッションページ、ショーのヘアメイクを手がけ、トップモデルらから厚い信頼を得る。『マトリックスで考える 売れる美バランス』(女性モード社)、『愛されヘア&メイク』(ベストセラーズ)、『あなたの美を引き出す 正しいヘア&メイク辞典』(高橋書店)など著書多数。
文・佐藤友美
日本初、かつ唯一のヘアライター&エディター。MINXの故鈴木三枝子さんについて関係者191名に取材してまとめた最新著作『道を継ぐ』が、美容業界を超えて話題になった。また、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)は、NHK「あさイチ」でも特集され、7万部の大ヒットに。「美容業界と一般のお客さまの橋渡しになる」ことをミッションに、数々の企画を担当する。
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