傷つくことができるのはチャレンジできた人だけ

いまどきの若い美容師さんは、みんな礼儀正しくて、優しくて、大きなミスをしない。なぜミスをしないかというとチャレンジしない人が多いから。

「気づいたら、たくさんお客さまがきてくれて売れっ子になっちゃって、雑誌の取材も増えて、皆さんのおかげです」なんて状態に、勝手に世の中がまつりあげてくれるのを待ってる人が大変多い。

トライしないから失敗もしないし傷つかない。でもみんなそこそこ器用だし頭もいいから、それなりに売れていく。自分が思い描いていた理想の60〜70%くらいの夢は叶えていたりする。

だからさ。

そんな礼儀正しい若者が多いから、特別際立つんだ、この、阿形ちゃんの「鼻息の荒さ」が。

私のところに切りにきてください。

私を使ってください。

私を雑誌に出させてください。

私の月末の売り上げ支えにきてください。

私を有名にしてください。

気持ちいいくらいの「私推し」。

そういえば、私が阿形ちゃんの存在を知ったのも、ヘアカタに出てくださる美容師さんを公募したときに、我先にとモデルさんの写真を送ってきてくれたのが阿形ちゃんだったからです。

有名店にいる人で、しかも女性美容師さんで、ここまで前のめりな人ってほとんどいないから、妙に記憶に残っていました。

彼女のブログのインパクトに比べると、彼女自身は意外とおとなしい印象だった。そしてそのとき作っていただいたヘアスタイルについては、大変申し訳ないのだけれど、さらにおとなしい印象であまり記憶に残っていない。たしか彼女にもそう伝えた気がします。

だけど、自ら手をあげて「うーん、イマイチだった」と言われること。こうやって挑戦して悔しい思いをした人にだけ感じることができる何かを、彼女は毎日蓄えているのだと思う。

何度もボコられたその傷だらけの手や心でしか作れないデザインも（未来には）きっとあるのではないかと思います。

おそるおそる、応援しております。

最後に。

勢いに任せて書きました。だけど、書いてわかったよ。私、阿形ちゃんと会ったこと、ほとんどなかった。彼女のこと、ほとんど知らなかったよ。ごめんなさい。

ただ、彼女のような突然変異の女性美容師さんが出てきたことは。きっと、2020年あたりの美容は、面白いことになっているだろうと思うんですよね。そのとき彼女はその面白さの中心にいるだろうな、と思います。

そういう勘は外さないんですよね、私。

先日、私の書籍『女の運命は髪で変わる』の出版記念パーティにきてくれたとき、久し振りに阿形ちゃんに会いました。カメラマンさんが撮ってくれた集合写真を、みんなにメッセンジャーで送ったら、数分後に阿形ちゃんから写真が送り返されてきた。

「私の二の腕、細くしましたんで、皆さん拡散するときはこっちの写真を使ってください」

どんだけ私推しだよ！！！！

というわけで、遠いところから、おそるおそるご活躍を期待しております。

  －Profile－

鼻息の荒い人／阿形聡美（あがたさとみ）

Satomi Agata

NORA Journey副店長。

関西から上京後、都内1店舗を経て、2008年NORA入社。2013年に新店舗NORA Journeyの立ち上げから参加。

女性ならではの視点で、甘すぎないカワイイ、本能をくすぐるような「エロ髪」を提案。お客さまの新たな魅力を引き出すことを得意とする。

NORAにおいては、口コミ、ブログ等をきっかけに、新規指名数No.1を誇り、幅広いお客さまに支持をされている。

文・佐藤友美

美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」（髪書房）「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」（女性モード社）など。書籍「女の運命は髪で変わる」（サンマーク出版）から発売中。

　　ヘアライター佐藤友美がみた美容師列伝バックナンバー

　　ライフマガジンの記事をもっと見る　＞＞