隈本達也さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第11回「まっとうな人」
東京の可愛いモデルを撮るのは僕じゃなくていい
実は私、隈本さんが撮る福岡の女の子たちの写真があまりにも可愛すぎて、それが、プロのカメラマンさんが撮る写真よりも可愛いような気がして、一度、東京にお呼びして「カメラマンとして」ヘアカタログの撮影の仕事をお願いしたことがあります。
結果は、
さんざんでした。100パーセント、私のキャスティングミスでした。
隈本さんは、カメラマンとしてセンスがずば抜けているから女の子が可愛く撮れるのではなく、自分のサロンにきてくれるお客さまを撮るのがうまいんだ。撮影をスタートしてすぐにそのことに気づきました。
それは、両親が撮影した子どもの写真が、ときにプロのカメラマンさんが撮った写真よりも可愛く撮れるのと同じで
自分が愛する自分のサロンのお客さまたちだから、この子は自分でも気づいていないこんな可愛いポイントがある、それをどうにか写真で写してあげたいと思うからこそ、あんな素敵な写真になるだけの話であって。
隈本さんにとって、縁もゆかりもない東京の女の子たちの写真は、確かに普通に可愛かったけれど、普段、隈本さんが、福岡の女の子たちにかけている写真の魔法みたいなものはかからなかったなと感じました。
隈本さんにとってファインダーを向ける相手が「自分のサロンのスタッフが施術をしたお客さまたち」、つまり大切な身内だから、可愛く撮りたいと誰よりも思うから、あんなにいい写真になっていることに、私も気づいていなかったし、多分、隈本さんも気づいていなかった。
あれは、とても大きな学びのあった撮影でした。
これは、つい最近の隈本さんのブログから。
例えば他のサロンのモデルで出てる女の子は撮らない、撮らなくなっていくかな。
同じタイミングで同じモデルさんが、複数のサロンで出てるのとかって、すごく不自然に感じるから。
美容室の情報がヘアメイクのスタイリングの創作なのか、サロンのカットしたデザインなのかが不明確な時代。
宣伝する為だけにスタイリングとかだけして撮影するとか、海外の人のヘアの写真とって載せるってスタンスは、何かウソっぽく感じる。皆が皆そうではないだろうけど、ちょっと分かりにくい。
だからスイッチでカットしてるのか、ヘアメイクのスタイリングなのかどうかは明確にしておきたい。
何のフィルターもなく、お客さまの声にまっすぐ耳を傾けている隈本さんだからこそ、「どのサロンの写真を見ても同じモデルばかり載っている」とお客さまが感じている違和感を早くからキャッチしていて、ただまっすぐに彼女たちの気持ちに沿ったサロン経営をして撮影をしているのだなあと、そう思います。
最近、隈本さんの撮影してもらった写真をSNSのアイコンにするといいことがおこるジンクスがあると福岡の女の子たちの間で話題になっているとか。
「そりゃ、あるだろうな」と思います。自分が綺麗になっていく様を記録してくれる他者がいることって、どう考えても、人生をステップアップさせてくれるに決まっているから。
私は隈本さんのことを、前世ではお兄ちゃんだったと思うくらい、いつもシンクロシティを感じているのですが、この間、勇気を出してそれを伝えたら「そうかなあ」と一蹴されました。そんなところも好きです。
-Profile-
まっとうな人/隈本達也(くまもとたつや)
Tatasuya Kumamoto
熊本県出身。
大村美容専門学校卒業後、福岡市内サロンを経て、
1997年田中征洋氏と共に『switch』を設立。
一店舗のサロン形態にこだわり、
福岡市内に100坪にセット面24席のサロンを展開中。
文・佐藤友美
美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」(髪書房)「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)など。書籍「女の運命は髪で変わる」(サンマーク出版)から発売中。
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