浦さやかさん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第10回「感性“だけ”じゃない人」

好きなことは消えたりしない。何歳になってからでもできる

 

「浦さん、じゃあ、この髪、どうやって巻いたか教えて下さい」と聞くと、浦さんは「あ、なんか、かわいい感じでふわっとこのへんをとってくるって巻いて……」と説明し始めたのです。

 

巻き髪のプロセスといえば「32ミリのアイロンを使って、顔周りはリバースで、それ以外は4箇所に分けてフォワード巻き。中間から1.5回転巻いて、10秒置いたら外します」みたいなことを想定していた私は、浦さんの説明に「浦さんごめんなさい。読者が再現できるように、ふわっととか、くるっととかじゃなくて、分量や時間、アイロンの太さや巻く方向などを教えて欲しいんです」とお伝えしました。

浦さんは、私の言葉にてんぱった様子でしたが、その日はなんとかかんとか、プロセスを撮り終えて帰られました。

 

私が驚いたのは、1ヶ月後、浦さんにまた撮影をお願いしたときのことです。

 

浦さんは相変わらずセンスのいいスタイルを作ってくれたのですが、そのデザインの説明が、1ヶ月前とは別人かと思うくらい、論理的になっていました。

「顔周りだけを細めにとってリバースに巻くのは、そうすることでフェイスラインに華やかさが出るからです」と説明してくれる浦さんの言葉を聞いて、「あ、この1ヶ月間、感覚的に作っていたデザインを、全部論理的に説明できるように特訓してきたのだろうな」とわかりました。

 

巻き髪のプロセスだけではありません。提案してくれるヘアスタイルに関しても、なぜいまこのスタイルが新しく感じるか、去年までのデザインとの違いはどこか、モデルの髪質や顔型にどう似合わせたかなどを、取材アンケートに明快に根拠を示して書いてくれます。浦さんの取材アンケートは、そのまま書き写せば原稿になるというくらい、理路整然としています。

 

ただ、ずば抜けてセンスがいいだけではなく、ただ感性が飛び抜けているからだけではなく、浦さんはそのスタイルが「どうしてかわいいか」を言語化して人に伝えることができる人でもあるのです。

 

当時のことを、浦さんはこう話していました。

 

「FLOWERSがスタートしたとき、一度自分をリセットしたんです。3人しかスタイリストがいない空間で、私が突拍子もない格好をしていたら、高柳さんのお客さまだってびっくりする。サロンが軌道にのるまでは、自分の色を出しすぎないように、エレガント系の方にも好まれるようなファッションやデザイン提案を心がけていました。モテ系の雑誌でも提案できるように、アイロンの使い方やそのプロセス説明もなんども練習しました」

 

FLOWERSにお客さまとスタッフが増えて行くに従って、浦さんは、徐々にみなさんが知っている、いまの浦さんになっていきました。

まず身につける小物が変わり(元に戻り)、服装が変わり(元に戻り)、髪色が変わり(元に戻り)、提案するデザインもどんどんとがっていきました。浦さんが牽引した空前のショートバング。潔い切り込み。なにより本人のキャラ立ち具合。

浦ワールドが全開になり、全国からファンが押し寄せる、日本を代表するデザイナーになってからの彼女は、私よりみなさんのほうがよく知っていると思います。

 

「本当は個性的なものが好きなのに、それをサロンのために抑えて仕事をしている時期は辛くなかった?」

私が聞いたとき、浦さんはこう言いました。

「自分の好きなものって、そうそう簡単になくなったりしないから、何歳になってからでもできるものだと思うんです。だから自分の得意じゃない分野も勉強したあの時代の仕事はとても勉強になりました。私、いまでも時々モテ系のお客さまいらっしゃるんですけれど、全然苦手意識ないです。それは、あの時代があったから」って。

 

浦さんは感性の人です。

でも、浦さんは感性“だけ”の人ではない。

浦さんは天才です。

でも、天才である“だけ”の人ではない。

 

そんなことを書きたかったです。

 

 

 -Profile-

感性“だけ”じゃない人/浦さやか

 

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otope代表

1979年生まれ、長崎県出身。都内1店舗を経て、FLOWERSのオープニングスタッフとして参加。2015年、FLOWERSのセカンドブランドとなる  otope  の代表に就任。現在はサロンワークを中心に、一般誌や業界誌の撮影、セミナー、ヘアショーなどで活躍中。ずば抜けたセンスと、独自の感性で表現するデザインは、多くの女性からの支持を得ている

 

 

文・佐藤友美

 

DX 0263 mini e1466768676138 U REALM高木裕介さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第9回「格好をつける人」

 

美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」(髪書房)「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)など。書籍「女の運命は髪で変わる」(サンマーク出版)から発売中。

 

 

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