東京・代官山から沖縄へ。atelier[es]上村コウイチさん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第5回「巻き込む人」
僕たちの成長をみてください
esの、
新規客よりもリピーターを大事にする方針とか
レッスン時間もミーティング時間も決めないやり方とか
スタッフが続々結婚出産し、戻ってきているその理由とか
いろいろ書きたいことはあるのだけれど、それは、過去にもいろんな媒体で書いてきたので、今回は1点。
地域の美容を盛り上げる、たった一人の熱狂について書きたいと思う。
これはとても個人的な見解だけれど、私は東京で活躍している美容師さんが、地元に帰って店を出しますと言われたら、すっごくうれしい。
誰かがサロンを辞めるというと、ぶっちゃけ、東京のサロンのオーナーさんに、「せっかく東京で頑張ってきたんだし、楽しいのはこれからだからって、思いとどまるように説得してくれませんか?」と頼まれることもあるけれど、私ははっきり言って「地元に戻ってサロンをやる」という人を全力応援したい!
東京で汗と血を流しながらレッスンしたことが、全国に広がって、あらゆる地域の女性がかわいくなっていくことはすごくうれしいから。
地域の美容レベルは、たった一人の「熱狂」で変わることがある。
それは、メーカーやディーラーの営業さんが美容師さんを巻き込んで一緒に成長していこうとする「熱狂」のときもあるし、その地域で独立することを決め、その地域の美容を盛り上げようと決めた、たった一人の美容師さんの「熱狂」のときもある。
沖縄では、上村さんが、その役割を果たしていた。
ずいぶん久しぶりに再会した上村さんは「沖縄の美容を日本一にしたい」と、私にはっきり言った。そして、そのためにいまは、信頼するメンバーと勉強会を重ね、フォトを練習している。いろんな講師を招いて刺激を受け、沖縄からデザインを発信できるようになりたい、そして卒業したら9割内地に出て行ってしまう美容学校の卒業生に「沖縄で就職するほうがかっこいい」と思ってもらいたいのだと、熱く語ってくれた。
そして、沖縄の美容師さんが100人集まった新年会の写真を見せてくれた。
「サロン、オープンしてまだ数年ですよね。すごいスピード」と言った私に、「もう若くはないんで。時間がないんです。急がないと」と。
上村さんは、冗談っぽく、でもたぶん本気でそう言っていました。
上村さんとの会話はいつも、主語が「沖縄」です。沖縄のサロンが、沖縄のお客さまたちが、沖縄の学生が、沖縄の美容レベルが……。
他店をdisって集客するのではなく、仲間を巻き込んでレベルアップしていくこと。その成果は、年々目に見えるようになって、最近では業界誌で沖縄のサロンが取り上げられたり、沖縄でのヘアショーも行われるようになりました。
昨年は、「僕たちの成長した姿をみてください」という招待状が届き、私もヘアショーを拝見しにいきました。みんな、とてもかっこよかった。
満席の会場、最初から最後まで、切れのいいステージが続きました。
帰り際「すっげー、よかったよな」「オレ、早く美容師になりたくなった」と話をしている専門学生の声が聴こえた。
ああ、上村さんが蒔いた種が、沖縄のみなさんが水をあげてきた苗が、こうやって花開こうとしているんだなって感じました。人ごとながら、なんだか、わたしもうれしかった。
「次のヘアショーは、僕、若手にまかせて裏方にまわるんです。みんな本当に頼もしくなりましたよ」と言った上村さんは、すっごくうれしそうだった。一人の熱狂が、地域を動かし、人を巻き込み、そして巻き込まれた人たちは今度は自分たちが熱狂して誰かを動かしていく。いいな、素敵だな。
これからもときどき呼んでください。そして、その伝播した熱の行く末を、見させてください。
-Profile-
巻き込む人/atelier [es] HAIRDESIGN 代表 上村コウイチ氏
2009年4月沖縄県那覇市に「[es]」を設立。2013年7月には同市内に2店舗目となる新ブランド[jill]をOPEN、現在スタッフ14名。
素晴らしい素材を持つ沖縄女性の魅力に惹かれ移住後、沖縄からヘアデザインを発信していけるような素敵な未来を創り上げるべく、志を共にする美容師仲間たちと一緒に県内を盛り上げている。
文・佐藤友美
美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」(髪書房)「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)など
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