ムラタサダヒロ×松村明輝「地域標準」のカラー戦略が全国区に。10年先のヘアトレンドを見続ける【タブロイド版リクエストQJより】
二人があえて東京以外の場所で勝負する理由
ムラタ:松村さんが出店するのは東京ではなく、柏市ですよね。あえて柏に出店する理由は?
松村:東京出店に関しては一度は頭をよぎったこともありましたが、理想のサロンを作るには郊外だな、と。結果的に柏に絞ったのは、都内のお客さまも足を運べる場所で勝負したいという思いがあったから。あと広い空間でお客さまをおもてなししたかった。スペースの余裕があって、人が集まる店舗にしていきたかったので。元々、柏でサロンワークをしてきた実績があるので、勝手がわかっていることも理由の一つです。ところでムラタさんの場合は、東京でサロンワークをバリバリやってからの仙台行きでしたよね。東京から出ることに躊躇しませんでしたか?
ムラタ:家庭の事情もあって仙台行きが決まったんですけど、自分に言い聞かせるしかなかったですね。東京で12年、散々好き勝手やってきたから、ここは家族のために覚悟を決めようと。仙台に越してからちょうど10年になります。東京にいた頃は、東北って田舎っぽいイメージがあったし、美容師として勝負できないでしょと思っていました。でも自分が仙台に来て、考えが変わりましたよ。場所なんて関係なく、どこでも勝負できる。そういう時代になったということです。
松村:もうムラタさんはすっかり仙台の人ですし、立地的なハンデも関係なく日本全国どこへでも行って活躍の場を広げていますよね。そもそもムラタさんがカラーを発信し始めたきっかけは何だったのでしょう?
ムラタ:最初はインスタの投稿写真を正面で作っていたんですけど、それってモデルの顔が可愛いから参考にならないという意見もあって。それでバックスタイルにラインや色を入れて作るようになって。バックショットだけでエレガントとかモードとかを表現し始めたら、どんどんフォロワー数も増えて。そのうちセミナーの依頼も来るようになって、僕自身、完全にカラーにシフトした感じです。美容メーカーさんの研究所の方とも交流が始まって、ケミカルにも詳しくなりました。全てが東京中心で、仙台はノーマークだった分、美容業界の中でインパクトを残せたのかもしれません。
松村:トレンドを作るのに場所は関係ない、と証明できましたよね。美容の発信地は東京だけでないし、発信力を持つことの強みを業界全体が納得したと思いますよ。
ムラタ:松村さんがカラーを発信するようになったきっかけは?
松村:世の中に新しいスタイルを広めるためにはどうしたらいいか?ということを常に考えていて、カラーはその手段の一つでした。東京でグラデーションが少しずつ流行り始めて、この流れでハイライトやバレイヤージュの波が来るんじゃないかと先読みしたんです。正直言うとブリーチは苦手な分野だったんですが(笑)、カラーの波がくると踏んだのでとことんやろうと。そこから世界各国のバレイヤージュを研究したんです。
ムラタ:日本でバレイヤージュが流行る前からやっていたパイオニアですね。元々外国人風カラーには注目していたんですか?
松村:僕が注目したのは中東のお姫様がやるようなバレイヤージュです。日本人はわりと明るい筋を作る傾向があるので、差別化するために逆に影が多いスタイルをやろうと思ったんですよね。でも僕は東京ではなく、郊外の柏から発信しているので、とにかく同志を増やしてバレイヤージュの認知を広げたいと思って。それがスクール開校のきっかけでした。
ムラタ:ヘアカラーのトレンドは本当に移り変わりが早いですよね。3年前、脱白髪染めというキーワードが生まれて、今では完全に市民権を得ている。しかも若い美容師さんたちもこぞって白髪ボカシを学んでいます。このグレイカラーに対応した技術って、まさに郊外型サロンに根付かせたい技術。最近、地方のセミナーでも脱白髪染めグレイカラーを教えることがあるんですけど、若い美容師さんが熱心に受講していますよ。
松村:うちで学んだ子たちも、20代の若手ですが、グレイカラー対応の技術を身につけて大人世代のお客さまから支持されています。少し前までは若手美容師さんって、自分と同世代か、少し若めの客層を意識してハイトーンを学ぶ傾向がありましたよね。その当時と比較すると、カラーデザインの幅が広がっています。
ムラタ:今まで白髪染めしかやってこなかった年配のお客さまが、白髪を生かしてこんなデザインカラーができるんだ、と気づき始めています。脱白髪染めカラーを学ぶことって、美容師にとってもチャンスにつながるんですよね。
松村:お客さまがデザインカラーを求めているのに、デザインカラーができるサロンはまだまだ少ないのが現状だと思います。出店に向けて、集客サイトで各エリアごとのメニュー展開を調べたことがあったんです。表参道エリアのサロンは圧倒的多数がデザインカラーを打ち出しているのに、それ以外のエリアでデザインカラーを打ち出しているのは数軒でした。しかもデザインカラーをやっているサロンを見つけたとしても、人気ゆえに予約がとりづらい。地元のお客さまへ向けてデザインカラーを発信していく必要を感じましたね。
ムラタ:うちの仙台のサロンでも、他のサロンではデザインカラーをやっていないからという理由で来られるお客さまもいます。しかもお客さまはインスタなどでたくさんの知識を得ているから、すごく詳しいし目が肥えているんですよね。松村さんのお客さまはどうですか?
松村:今は明るいカラーがトレンドだと思うのですが、僕はどれだけ影を残せるかにこだわっています。影の残し方次第で表現にも大きな差が出ますし、それに気づいているお客さまも多いですよ。トレンドの流れって結果的には繰り返しで、やがて飽和する。今は特殊と言われていることが、10年後は当たり前になっている可能性もあります。
ムラタ:だから僕たちは、新しいことに目を向けていなければ。これを仕事として捉えるのではなくて、文化を作っていくんだと捉えて情熱を注いていきたいと思います。
【タブロイド版リクエストQJより】
(photo/宮崎洋)
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