今こそ考えるクリエーションとは何か。 gem代表 森川丈二 × DADA CuBiCクリエイティブディレクター古城隆(後編)
美容師として上手いことと、売れることはイコールなのか
編集部:続いての質問です。「クリエーションに取り組んで、一番自分にプラスになったことをお聞きしたいです」。
森川:僕は美容師としてキャリアを積んだあと、ヘアメイクになりました。これまでヘアメイクで培ってきたものがベースになっているし、今でも表現し続けているわけです。クリエーションでプラスになるというより、クリエーションをしてきたから今がある。
美容師を長く続けていく上で大事なことは、教育とクリエイティブな部分ですよね。美容師は手に職を持つ専門職だから、「職人としての基礎」と「クリエイティブ」、この二つを追求していかないと、明るい将来は見えないんじゃないかなと思っています。
古城:クリエーションに打ち込むことで、技術力やデザイン力が上がってサロンのお客さまがより満足してくださるようになったり、人に喜びを与えられるようになったりしたことが、クリエーションを通じて得られたものなのかなと思います。
編集部:続いて「美容師として上手いこと、売れていることをイコールに考えるべきなのか」という質問です。いかがでしょう。
古城:なかなか表現しづらい話ではあるんですけれど、一概にイコールだとは言えないと思いますね。ただ、美容師なので、いくらアーティスティックな作品をつくったとしても、お客さまがいなければ説得力がない。美容のシーンとしてはいろいろな上手さがありますから、上手さと売れているがイコールとは表現しづらいですね。美容師は人間力も大切ですしね。
森川:やはり目の前にいる人も綺麗にできない、満足させられないのに知名度があったとしてもなんぼのものなんだろうって思いますよね。だから、上手いことと売れることがイコールというよりは、イコールになるようにやり続ける意識が大事なんだと思います。
美容師とヘアメイク、2つの視点があるから見えてくること
古城:森川さんに聞いてみたいことがあるので質問してもいいですか。森川さんは美容師とヘアメイク、両方の視点を持っているじゃないですか。そこでのスイッチの切り替えの仕方であったりとか、両方あるからこそ見えることとか、あるんでしょうか。
森川:圧倒的に違うのは、ハサミを持っているか持っていないかですね。もちろん、現場でハサミを握ることもあるし、自分がカットしたモデルさんのヘアメイクをすることもあるんですけれど、ほとんどの場合は自分以外の美容師さんが切ったスタイルを触ることになります。それが面白さであり、難しさなんですね。
古城:ヘアメイクの観点で触るヘアと、サロンでつくるヘアはやっぱり違いますか。
森川:違います。その違いは以前ほどではないですけれどね。別の人の手が入っていることで扱いにくいこともありますし、逆に扱いやすいこともあります。髪が重すぎたり、軽すぎたりすることもあるんですね。そういう背景があるので、自分が切るときは最終的な着地を目指してつくります。アレンジしやすいものにしたりしてね。だから、私個人はサロンワークも撮影も同じ視点で取り組んでいます。
古城:もう一つ、聞いてみたいことがあります。僕たちは美容師なので海外のファッションショーのバックステージなどに行く機会が無いのですが、どういう現場なんですか。
森川:比較的穏やかなものもあれば、雑然としていたり、慌ただしかったり。撮影をするときにスタッフとクライアントがいると思うんですが、その何倍かのスケールを想像してもらえるとそれに近いかな。
コレクションではテーマに沿った女性像があって、そこを目指しメイクアップして、ヘアもつくるんですが、黒人の人がいれば白人の人もいるし、肌色も髪質も違うんですね。結局、大事なのは女性像をどうつくるか。この人に対してどの色を設定して、ヘアをデザインしたらその女性像にもっていけるのか。それを経験できたことが一番大きかったです。
古城:かなりの積極性が必要という話も聞きます。
森川:自分から行かないと仕事にならないですからね。年齢的にも若かったし、東洋人だからより若くみられるんです。やらせてもらえれば技術力を理解してもらえるんですけれど。言葉の面でもハードルは高かったです。でも、一度信頼を勝ち取ると、日本の現場で再会したときなどにも覚えていてくれるんですね。だから、技術は言葉を超えると思うし、大変でしたけれど、自信にもつながりました。
アバンギャルドは奇想天外なものを指す言葉ではない
古城:森川さんと最後に話したい話題があります。
近年、フォトコンテストが盛んになり、クリエイティブ部門、サロンスタイル部門のような言葉が生まれて、クリエイティブという言葉に対するイメージが強まっているような気がするんですね。部門を分けることは必要かと思いますが、作品のテイストで線を引いて、差別化している感覚が強くなっているといいますか。それにより、自分は「クリエイティブ風」なのは好きじゃないという言葉を聞いたりすることもあります。もちろん好みはあって当然ですが、その観点だけだと僕自身はそれって寂しいことだなと感じています。森川さんは今の状況をどう感じていますか。
森川:昔はクリエーションが非現実的なものをつくり上げるようなイメージを持たれていたと思いますが、今またそこに戻ってきているような気がしています。僕自身は、サロンワークとクリエーションが別物ではないと思っています。クリエーションって、例えば究極まで削ぎ落とすこともクリエーションですから、そういうところがきちんと伝わればいいなと。今の傾向で長く続いていくともったいない気がしますね。
古城:自分の好みの話になりますが、アバンギャルドなものが出てくる業界のほうが面白いなあという気がするんですけれどね。振り幅を大きくすることで見えてくる景色もあります。美容業界として、本当に新しいものを生み出す動きがまたどんどん出てくると、刺激があって面白くなるんじゃないかなと思います。
森川:アバンギャルドは私が一番好きな言葉なんです。アバンギャルドは言葉通りだと「前衛的な」という意味になりますよね。そうすると日本人は奇想天外なものをつくるイメージを抱きがちがだと思います。
でも、自分の中の解釈としては、ギャルドはお城なんですね。アバンは一歩前。お城には自分が積み重ねてきた基礎がある。そこから一歩踏み出すという解釈なんです。つまり、日頃意識して積み上げたものが自分の後にあり、そこから勇気を出して一歩踏み出す。立ち止まらず、前に進んでいく。これがアバンギャルドであり、自分のポリシーなんです。だから最後に古城さんからアバンギャルドという言葉を聞き「そうなんだよ!」と思いました。
古城:自分を信じて作品をつくることや表現をすることはとても勇気がいることです。今の言葉をお借りして言うならば、自分の枠から一歩出てチャレンジして表現する。それは評価されるかどうかは別として、きっと見る人に感動を与えるんじゃないかなと思います。それがクリエーションの本質かもしれませんね。森川さん、今日はどうもありがとうございました。
森川:こちらこそありがとうございます。また話しましょう。
(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)
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