今こそ考えるクリエーションとは何か。 gem代表 森川丈二 × DADA CuBiCクリエイティブディレクター古城隆(前編)

技術的に多少の粗があっても、作り手の情熱は作品に投影される

 

 

編集部:技術的に少々拙いところがあっても、エネルギーが込められていれば、訴えかける力があるものですか。

 

森川:僕自身はそう思います。若い時に師匠のマサ大竹さんから言われたんです。「細かいことはいいんだよ。もっと大胆さと繊細さを一緒に持って仕事をしなさい。ヘアはなまものなんだ」と。たしかに私には、どうしてもデッサンに寄せていこうとしたり、目の前のモデルさんやヘアスタイルと向き合えていない時代がありました。それを経て感じたのは、髪の毛が1、2本乱れていても、圧倒的な勢いがあるものは、多くの人に強い印象を与えていくし、多少の粗はあっても小さくまとまらない強さもある。情熱は投影されるものです。

 

古城:紙一重だなと思うのが、浅はかなものとは違うんですよね。自分たちも情熱を込めて作品をつくっているからこそ、浅いところが見えてしまうこともあります。

 

僕自身は例えば、誌面に載る仕事をするときに、それを見てくれる人に美しいものを届けたいとか、美容業界にどういうメッセージを届けたいとか、根底に考えていることがあります。それを実現するためには技術力、デザイン力のレベルを上げる必要がある。精神的な部分や人間的な厚みが、作品にも反映される。これはサロンワークも同じで、ヘアデザインがお客さまからの信頼感にも繋がると感じますね。

 

受賞を逃した作品が、自分の看板になることもある

 

古城さんのクリエイション風景

 

編集部:お二人はコンテストの受賞歴があり、審査員もされていますが、賞を取った作品と惜しくもならなかった作品の違いはどんなところにあるんでしょうか。

 

森川:いや、自分自身はずっといまだに疑問です。賞につながった作品には思い入れがあるし、撮影時の光景も記憶にあるくらいです。一方で、全く評価に至らなかった作品にも、忘れられないものはあるんですね。評価イコール素晴らしいわけじゃない。たしかに、受賞したことが次のステップに導いてくれたこともあります。一方で、その時の評価には及ばなかったけれど、「あの時の作品が忘れられません」と言われるものもありました。

 

結果に繋がらなかったのは残念だけれど、しっかり届いていることがわかって達成感が遅れてくることもあるので、第三者の評価が全てではないです。

 

古城:コンテストは人が人を評価するんですよね。だから狙って獲れるものではないし、狙いにいくと自分自身が満足しない。一番理想的なのは、自分が好きな作品が出来て、それが評価されることですね。

 

おそらく今美容業界で活躍されている方って、何らかのきっかけとなる代表作があったと思います。それがコンテストで評価されたか、されていないかは別として。僕はその代表作と言えるものをつくることが大事なのかなと思います。その作品が名刺代わりになり、そこから段々と結果を出していく。そして人間的な力、アイディアも必要になり、総合的な見られ方をするようになる。そういうものではないかなと思いますね。

 

JHAグランプリを受賞した後、何が変わった?

 

古城さん2021年JHAグランプリ作品

 

森川:古城さんはまたJHAをとられたじゃないですか。1回目のときと2回目のときと、心境の変化はありましたか。

 

古城:初回は驚きが大きかったです。でも結果を出せたことで僕は楽になれたんですよね。その前の数年間、良いものをつくらなくてはいけないというプレッシャーを感じながらつくっていたので、結果が出たことで自由になれたというか。一番違うなと感じたのは、周りからの見られ方ですかね。1回目は多くの方が祝福してくださって、関係者のみなさんも喜んでくれた。

 

2回目もそこは同じではあるんですが、祝福されるだけではなくなったんです。年上世代の美容業界に近しい方から「もっとこうなればいいのに」という助言をいただくこともありまして。2回グランプリになったことで、「求められる人物像」ができてきたなと。助言は素直に聞き入れて、自分の軸はブラさずに進化していきたい気持ちが生まれましたね。

 

森川さんの作品@HAIRMODE

 

森川:僕はJHAをとった後が苦しかったんですよね。それまではやりたいことをやりたい放題くらいの感じでやっていたんです。人と同じことはしないとか、荒削りだったかもしれないけれど、伝えたいことをクリエーションにこめて伝えていく感じでした。JHAをとった途端に、「最年少受賞者の名に恥じないものをつくらなければ」という想いが生まれたんですね。自分自身で、受賞者に恥じないものか問いただすこともありました。

 

だから1年間くらい辛かったですね。いざつくるとなれば、クリエーションに集中できるんですけれど、そこに向かう過程の心境が受賞前と大きく変わったというか。

 

古城:たしかに、自分自身が満足できるクオリティかどうかだけではなく、第三者の見る目も意識するようになりました。僕はこれまでコンテスト受賞者の方を見てきたのですが、受賞をすると一気にクオリティが上がる方もいますよね。それはある意味、自信がついたり、下手なものはつくれないとか、良い意味で負荷がかかっているんでしょうね。

 

僕も撮影するときになるべく何かしらの課題を自分に与えて、負荷をかけながらそれを乗り越えていますし、ドキドキしたものがつくれないと満足しない感じになってきました。毎回、その繰り返しだからクリエーションには終わりがないんですね。

 

(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)

 

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