LONESS片山良平×FILMS若林紀元 気鋭のオーナーが語る「サロン経営のNEW BASIC」
どんなに技術が上手くても、満足させられなかったら失敗
編集部:最近はスタイリストデビューの期間がだんだんと短縮されている傾向がありますが、それについてお二人はどう感じますか?
片山:以前、「お寿司屋さんの修行が10年間もかかるのは長すぎる」という話題がありましたよね。「寿司アカデミーで学べばすぐ習得できるのに」みたいな。ただ技術を学ぶだけならその通りかもしれないけど、「お寿司屋さんとしての品格を養ったり、お客さんとの粋なやりとりを覚えたりして、贔屓客をつくる寿司職人になるためには10年かかる」っていう話なんじゃないかと思うんですよね。
ヘアサロンにも似たようなところがあって、どんな完璧なカットができたとしても、お客さまが満足しなかったらデザインとして失敗じゃないですか。お客さまの気持ちを察知して、自分のフィルターを通してデザインすることは、やはり数年はかかると思います。
実際、カットはめちゃくちゃ上手いし、作品作りも得意だけど、あんまり売れてない美容師さんもいますよね。一人ひとりに寄り添うデザインっていうのは1年、2年じゃ身につかない気がします。
若林:サロン経営の視点で考えたら、どんどんスタイリストデビューさせたほうが効率は良いんですよ。売上が上がるから。でも、それが本当にお客さまとスタッフが望む未来を叶えることにつながるのかと言ったら、違う気がします。
教育という点では、FILMSは「育てる人を育てたい」と思っているんですよ。技術が上手い一流の美容師は結構いると思うんですが、技術を継承できる超一流の美容師は少ない。そんな人材を育てていきたいと思います。そうした先々まで描けるスタッフを育てるとなると、やっぱり短期間では難しいですよね。
チームだから、一人では辿り着けない場所にも行ける
編集部:お時間も迫ってきたので最後のテーマです。美容業界はこれからどんな風に変化していくと思いますか?
若林:正直、5年先も読めないし、10年先なんて見当もつかないので、あんまり先のことは言えないんですが、大きな変化の流れみたいなものは日々感じています。
例えば、美容業界を目指す若い子たちの価値観が間違いなく変化していること。自分の仕事が社会に対してどんな貢献をしているのかを真剣に考える子が増えました。
昔のように売上月300万円上げて、めっちゃ稼ぐぞっていう子は減りましたよね。だから、稼げるぞっていうPRをしても響かなくなっている気がします。オーナーは若者の価値観の変化に対応する必要があるかもしれませんね。
片山:それは確かに僕も感じます。あと、個性の時代と言われているし、フリーランスも増えていますけれど、遠くに行くためには仲間が必要だと思うんですよね。例えば僕らは100年続くヘアサロンを目指しているんですが、これは一人でできることじゃない。だからこそ、チームとして団結して力を発揮するための環境づくりが大事だし、一方で個人の夢もサポートすることも大事かなと。難しいことですけれどね。
若林:僕はみんなでワイワイとチームで働くのが好きなんですよ。貴重な20代、30代にいろんな人に揉まれて、自分の信念が固まってくるものだと思っています。個人と組織のどちらが正しいとかじゃなく、どちらもメリット・デメリットがあるとは思いますけれど。
片山:そう、どっちもアリなんですよね。
若林:だから、自分たちの信じるやり方を、やり切るしかないんですよ。
(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)
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