美容師が一生輝けるサロンをつくるために必要なこと
世界中を旅しながら現地のクリエイターとコラボで作品をつくるヘアメイクアップアーティストであり、大阪・神戸・姫路・ニューヨークに拠点を構えるTICK TOCKのオーナー牛尾早百合(SAYURI USHIO)さん。小顔補正と時短を実現する「ステップボーンカット」というオリジナル技術の啓発もおこなっています。国内外を飛び回る忙しい日々の合間を縫って、「美容師が一生働けるサロンづくり」というテーマでお話していただきました。「美容師のゴール=独立」と考えている方は、ぜひ読んでみてください。
職人は一生仕事ができるのに、なぜやらないの?
Q.ある程度経験を積んでから独立される美容師さんが多いので、SAYURIさんがおっしゃる「一生働けるサロン」というのは、とても新鮮な印象を受けます。なぜ、そういうサロンを作ろうと思われたのでしょうか?
そもそも私は、仕事は一生するものだと思っています。技術を持った職人さんたちは、ずっとその仕事を続けますよね。なのに、美容師は途中でやめる人が多い。おかしいなって思っていたんです。
一般的にいって、アシスタント時代から一生懸命頑張って5年くらいかけてスタイリストになって、最初はお客さまがいない状態を乗り越えていきますよね。そして、スタイリストとして2、3年は順調にきたのに、30歳くらいで結婚出産などのライフスタイルの変化や、独立で離れていってしまう人もいる。これが美容業界の摩訶不思議なところ。めちゃくちゃ効率が悪いですよね。
正社員だけじゃなく、業務委託やフランチャイズなどさまざまな働き方が可能になれば、スタッフひとりひとりのライフスタイルを吸収できる組織になる。そうなれば独立する必要がなくなりますよね。私はそこを目指しているんです。
Q.独立させないサロンということですね。
もともとは、30歳くらいで独立させる方向で考えていたんです。でも、TICK TOCKで10人くらいのマネジメントをしていた店長が、独立して2~3人で小ぢんまりと経営していたりする。そうすると、「あの子を本当に独立させてよかったのかな。本人は幸せなのかな」って疑問がわいてくるんです。
しかも、独立するのは優秀なスタッフですから、次第に本部が弱っていきますよね。だから、そのサイクルを断ち切りたかったんです。
今は独立のハードルが下がっていて、お金さえあれば簡単に独立できてしまう。そんなにお金がなくても、業務委託だったらすぐにはじめられますよね。
だからこそ、簡単ではないですが、優秀な人ほど残る組織をつくっていきたいと思ったんです。安易に独立するよりも、会社に残るほうが、成長できると感じてもらえるようにしたいですね。
ずっと働き続けたいとスタッフに思われるサロンづくり
Q.とはいえ、組織に魅力がないと人は離れていくと思います。人が辞めないサロンにするために、どんな工夫をしていますか?
スタッフが得意なことで活躍できるように役割をつくっています。たとえば、ウチにはプロジェクトがいくつも立ち上がっていて、テクニカルディレクターをはじめ、マーケティングやクリンネス、ITを活用するチームもいます。各チームのリーダーが2か月に1回ペースの全社会議で、ビジョンや活動内容を発表する。発表者はいわば花形の存在で、みんなそこを目指しています。
ちなみに、マーケティングチームが人気で、キャンペーンの企画や、SNSやブログの更新、情報の拡散などをおこなっています。みんなマーケッターになりたがっているんですよ。
とにかく自分が興味を持っているもの、得意だと思っていることに取り組んでもらうことがポイント。当たり前のことですけれど、苦手なことはしたくないし、無理にやってもらっても失敗するのが見えていますから。
あとは、サロンのなかに籠らないのも大事かな。セミナーでスタッフを連れて全国に飛び回っているので、さまざまな美容師さんにお会いできます。100店舗のオーナーさんがいれば、一人でやっている方もいる。それぞれものごとの見方、考え方が全く違うわけです。そういう人たちと話すことが、人間形成につながります。
また、普段はサロンワークBtoCの仕事をしていますが、セミナーはBtoBのビジネスですよね。BtoBならではの難しさ、厳しさを知ることも、成長につながるのかなと。こんな感じで、スタッフ自身が、いくつになっても学びを得ることができ、「自分が成長している」と実感できれば、辞めないと思うんです。
Q.いくつになっても”働きがい”があるサロンということですね。一生働く、という視点でいうと、職人さんと同じように技術研鑽も欠かせないと思います。
教育に関するところでは、カリキュラムを電子化・クラウド化して、いつでもPCやモバイルから見ることができるようにしています。これによって、教える側、学ぶ側の負担を減らすだけなく、「判断基準」を統一しているんです。
「このやり方であの先輩には褒められたのに、違う先輩には叱られた!」というのが教育の場でよくある問題だと思うんですが、そういう行き違いや勘違いをなくすことが大切。曖昧なことがあると、それが不満の原因になります。もちろん、全部IT任せではいけないので、重要なところは現場でチェックしていますね。
こんなふうに無駄をなくせば、美容師の技術習得も速くなるし、レッスン時間も短縮され、その分、自由な時間が増えるなど、働きやすさにもつながるのではないでしょうか。
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