「難しいけど、難しく考えすぎないで」。LGBTQ+当事者がNYで感じた多様性の自由と、日本の美容室の課題―美容師・細野まさみさん|美容室とセクシュアル・マイノリティvol.2
セクシュアリティ、人種…あらゆる面で偏りのないサロンを目指して
『VACANCY PROJECT』では、プロナウンス(代名詞や呼び名)に気をつけています。ニューヨークでは自分のことをどう呼んでほしいのか最初に尋ねるのが一般的で、病院でも受付表に記入欄があります。「she」なのか、「he」なのか「they」なのか。確認されたからといって、「私、男に見えたのかな」とショックは受けません。ニューヨークでは、男性は「he」女性は「she」と決めつけることはないんです。
ヘアスタイルにしても、カットする前に15分から30分近くカウンセリングの時間を設け、「ボーイッシュ」や「ガーリー」といった形容詞ではなく、もっと細かいイメージを共有してから、その人の希望する髪型を作るんです。「この人はこういう人だな」という先入観ではなく、しっかりその人を見てカットするために。その人の中にイメージがないようであれば、その日はカットせずに一度帰って考えてきてもらうこともありますよ。
『VACANCY PROJECT』がオープンしてから、もうすぐ3年になります。現在はスタッフの人種もさまざまで、アジア人も含めて有色人種のスタッフが何名もいます。
実は、アメリカでLGBTQ+を差別する人は、人種でも差別することが多いんです。日本では今LGBTQ+が注目を集めていますが、これが人種や人のポリシーなど、すべてにおいて多様性を受け入れるきっかけになればいいなと思っています。そのために、『VACANCY PROJECT』はセクシュアリティや人種だけでなく、あらゆる面において偏りのないサロンにしていきたいですね。もちろん、こうしたコンセプトと同時におしゃれなサロンであることも追求し続けるつもりです。
お店ではイベントもよくやっているんです。「ブッククラブ」と言って、スタッフとお客さま20人くらいが、事前に決められていたLGBTQ+や人種差別に関する一冊の本を読んでおいて、月曜の夜に集まって感想を話し合うんです。それは理解を深めるためでもあるけど、純粋に楽しんで企画しています。そうやって身の周りから変えていけることもあるはず。日本の美容室で働く人たちも、難しいけど、難しく考えすぎずに取り組んでみてほしいと思います。
- プロフィール
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VACANCY PROJECT
クリエイティブディレクター/細野まさみ
1988年生まれ。東京都出身。日本美容専門学校を卒業後、都内有名店へ入社。その後、2012年にニューヨークへ行き、ニューヨークで1店舗を経て15年に『ASSORT』へ入社。2016年4月に自身が店長兼クリエイティブ・ディレクターを務める「VACANCY PROJECT」をオープン。現在は、ニューヨークを拠点に活躍している。
(取材・文/小沼理 写真/河合信幸)