「美容業界=LGBTフレンドリー」ではない。美容室に必要なのは想像力だ ―グッド・エイジング・エールズ松中権さん|美容室とセクシュアル・マイノリティvol.1
近年、ニュースなどで「LGBT」という言葉を聞く機会が増えてきました。レズビアン(Lesbian・女性同性愛者)、ゲイ(Gay・男性同性愛者)、バイセクシュアル(Bisexual・両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender・生まれたときの性別と自分の認識する性別が異なる者)という4つのセクシュアル・マイノリティの頭文字をとった言葉です。
※最近では「LGBT」という表現は使わず、「LGBTQ+」という表記が使われることが多い。「LGBTQ+」の「Q」は、「クィア(Queer・自分の性自認や性的指向を定めていない者)」の頭文字。
「自分の職場やお客さまにはLGBTの人はいない」と思った人もいるかもしれません。しかし、ある調査ではLGBTの人の割合は約8%といわれており、これは左利きやAB型とほぼ同等の割合です。
社会的にムードが変わりつつある中、 “美容業界”ではどのような体制を取っていくべきなのでしょうか。そこで今回は2回に分け、「組織」や「雇用」をテーマに、当事者へインタビュー。美容室スタッフとオーナーが今後どう向き合っていくべきなのかを探ります。
Vol.1となる
今回は、LGBTの人たちが過ごしやすい社会作りを行う認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権(まつなかごん)さんのもとへ。松中さんは「身近にいないと感じるのは、彼らがそれをオープンにしづらい環境があるから」だと言います。
美容業界が抱える課題や当事者たちにとって働きやすい職場を作るためにオーナーにできることは? そんな疑問をぶつけながら、LGBTのお客さまに対してどのような配慮が必要なのかをうかがいました。
LGBT=バラエティ番組のオネエではない。イメージと実態のギャップに生じた課題とは?
—松中さんはさまざまな企業でLGBTの勉強会や研修を行っていますが、現在の美容業界には、どのような課題があると感じますか。
松中:美容室のスタッフ構成は少人数なことが多いので、スタッフ間の距離が近くなりますよね。僕の周囲にも、LGBTであることを隠して美容師として働いている人がいるのですが、みんな仲がいいがゆえにプライベートな話をする機会も多いので、そのたびに嘘をついたり、「本当は彼氏なのを彼女と言って隠さなくてはならないのが大変だ」と言う意見を聞きます。スタッフだけでなく、お客さまに自分のことを聞かれたときも、「お客さまと仲よくなりたいのに嘘をつかなくてはいけないことが心苦しい」という意見もあります。
また、自分はLGBTであることを隠しているけれど、LGBTであることを隠していないお客さまが来店したとき。お客さまの前ではにこやかに接客していても、帰った後でその人をネタにして盛り上がっているのを見て、嫌な気持ちになったという人もいました。
これまでいろんな企業からLGBT研修の依頼があったのですが、今のところ美容室から研修の依頼がきたことはありません。これから理解が浸透していくことが期待される業界だと思います。
—テレビに出ているオネエ系タレントには美容の専門家も多いため、他の業界に比べると理解が進んでいるイメージがありました。決してそうではないのですね。
テレビに出演されている方はあくまでバラエティのためのキャラクターですからね。むしろ、そのイメージがあることで「LGBTはみんなオネエのように美意識が高くておもしろい」と思っている人がいるかもしれません。便宜的にLGBTという総称を使っていますが、実際には一人ひとり個性を持った人たちです。そうして一括りにしてイメージを押しつけられてしまうのは、誤解の一つでしょう。
また、バラエティで活躍している美容家を見て、「この業界なら自分らしく働けそう」と思って美容業界に入ってくる若い人もいると思います。でも、いざ就職してみるとオーナーには理解がまったくなく、人間関係も体育会系で典型的な男性社会ということも。まったく自分らしく働けず、イメージとのギャップを感じ、ドロップアウトするケースがあると思うんです。
こうしたケースは、近年社会的に増えています。LGBTフレンドリーだとアピールする企業は増えていますが、実際の職場やマネジメント層まで意識が共有されておらず、人間関係でトラブルが起きてしまうんです。美容業界は先ほどのようなタレントのイメージが付随しているぶん、こうしたトラブルも起きやすいと思います。