外国人美容師就労の現状とは? 今後ますます増えるインバウンド需要に日本の美容業界はどう対応する?
日本で教育を受けて、美容師になることがステイタスになる
外国人美容師監理実施機関/理事長の村橋哲矢さん
編集部:東京都の外国人美容師就労がスタートしてまもなく2年になります。現状では、どのくらいの外国人美容師が働いているのでしょうか?
村橋:昨年の4月にまず3名働き始めて、その後1年が経ち結果的には今年の3月末時点で9名の美容師が就労しました。家庭の事情等で帰国した方もいるので、現状だと7名の外国人美容師が都内で就労しています。中国、韓国、ベトナム、オーストラリアなどアジア近辺のさまざまな国からですね。
編集部:なぜ日本で美容師になることを選んだのでしょう?
村橋:先ほどの韓さんのように、日本が好きとか、憧れているという理由の方が多いですね。教育制度が確立されているというのも大きいです。2年間専門学校で知識と技術を身につけて国家資格を取得する、という制度は他国に例がありません。それもあって、日本で学んだというだけで一つのブランディングができるんです。今までは美容師免許を取らずに卒業して帰国する方が多かったし、それだけでも十分ブランディングになっていたのですが、これからは就労もできます。今後は、免許を取得して5年間就労した後、自国に帰ってビジネスを展開するという方がより一層増えていくと予想しています。
編集部:受け入れ先であるサロンは、外国人美容師に対してどのようなことを期待しているのでしょう?
村橋:受け入れ先のサロンさんのことを私たちは育成機関と呼んでいますが、現在約30社ほど。その育成機関が求めていることはいくつかあります。一つは、インバウンドを吸収するために外国人スタッフが必要。またもう一つは海外出店を見据えて信頼できるパートナーを育てたい。
そして、多様性を求めて受け入れを決める育成機関もあります。日本は単一民族国家なので、その点で見ると多様性に欠けていてクリエイティブなものが出づらい。多様性がないと新しいものが生み出されないと個人的にも感じています。今、働いている外国人美容師は、違うキャリアから転身して日本で美容師になる方も多いです。だからこそ目的意識が強い方が多く、さまざまな国から来ているということもそうですが、そうした美容師がサロンに一人でもいるだけでかなりの刺激になっているようです。
課題はあれど、外国人美容師からスターが生まれることを期待
編集部:外国人美容師の就労に関して、現状で課題はありますか?
村橋:外国人美容師が就労した後、サロンに監査チェックに入るのですが、これがなかなか厳しいですね。例えばみなし残業時間がオーバーしていないかとか、休憩時間がしっかり1時間取れているかとか。もちろん不当な労働環境があってはならないので必要なことなのですが、美容業の実態と監査でのチェック項目がそぐわないし、サロンが改善しようとしてもすぐには難しい側面もある。また、就労にあたって5年間の在留資格(ビザ)を申請するのですが、現状だとスタートしたばかりということもあって5年間申請しても1年分しか許可がおりないんです。そうなると申請にあたっての煩雑な手続きを1年後にまたやらなければならない。これは徐々に改められていくと思いますが時間もコストもかかることなので、育成機関側は育てたいという強い想いがないと続けるのは困難だろうと思います。
一方で、働いている外国人美容師側は、文化の違いやコミュニケーション面で意思疎通が難しいケースもあるにはありますが、ほとんどの方が上手く適応できていると感じています。既に社内コンテストで1位を取ったり、活躍されているニュースも入ってきているので、早晩、外国人美容師の中からスターになる美容師が生まれるのではないかと期待しています。
外国人美容師は、日本の美容業界の大きなテーマに
編集部:今後の展望についてお聞かせください。
村橋:これからますます日本人の人口は減少していき、外国人の比率が増えていくでしょう。観光客もそうだし、居住する人も多くなっていく。美容業界が対応するためには、外国人美容師を入れていくほうがよりスムーズなのではと思っています。
今年以降、美容の観光資源化が本格的に検討されていて、例えば東京都はインバウンド対応を積極的に行おうとするサロンへの助成金もスタートしていますし、私たちも合わせてプロジェクトを開始しました。そうするといよいよ、それぞれの国の言葉でコミュニケーションを取れるスタッフがいるかどうかが大事になってくる。美容業界でのインバウンド対応の活性化にともなって、外国人美容師を雇用したいというサロンもどんどん増えていくことが予想されます。しかし、どう対応すればいいか方法がわからない人がおそらくほとんどです。だからこそ、私たちで一つの答えを提示したい。現状では、その動きの中心となる人材を育てているイメージです。
「外国人美容師」は、今後日本の美容業界で大きなテーマになることは間違いないと感じています。
- プロフィール
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kakimoto arms青山店/アシスタント
韓麗花(かんれいか)さん
中国出身。中国で社会人経験を積んだのち、日本語学校で語学を学び、中部ビューティ・デンタルカレッジに入学。卒業後はkakimoto arms青山店にて活躍中。
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kakimoto arms/取締役
村松亜子(むらまつあこ)さん
両親の仕事の関係で高校受験まで海外で育つ。帰国後kakimoto armsに顧客として通い、サロンが青山に進出する際に美容師ではない立場で、kakimoto armsのブランディングを担うべく入社し、数々の店舗ブランディングや広報を担当。現在取締役。
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外国人美容師監理実施機関/理事長
村橋哲矢(むらはしてつや)さん
京都出身。青山学院大学経営学部卒業。100年以上続く歴史ある美容室の家に生まれる。大学卒業後は金融系企業勤務を経て家業を継承。現在、東京都港区高輪で総合美容室を経営する傍ら、がん患者へのアピアランス・ケア、貧困家庭のこども美容無償化などの美容師の社会貢献や、VR動画による技能教育など業界のデジタル化といった美容業の未来に向けたプロジェクトを実施。2023年より外国人美容師の国内就労を監理・支援する監理実施機関の理事長に就任。また、一般社団法人外国人美容師監理実施機関 理事長、東京都美容生活衛生同業組合 専務理事、一般社団法人アピアランス・サポート東京 代表理事、公益財団法人東京都環境衛生協会 港区環境衛生協会 会長一般社団法人 日本コスメティック協会 顧問 ほか、美容業に関わるさまざまな団体の役員を兼任。
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