【黒肌&アラ還美容師】50代後半でフリーランスに。還暦美容師 吉田ケン×笠本善之が語る美容師の”真髄”。原点に戻って理解した仕事の原点と醍醐味
量をこなしてきた人だけが「質」を語れる
——業界の教育面においても、営業時間内での練習やデビューの早さなど、昔とはかなり変わってきたと思いますが。
吉田:昔みたいに、「ゴチャゴチャ言わずにやれ」は通用しない時代ですよね(笑)。僕も教育に携わっていますが、今はまず”ゴール”を見せて、そのためにどれだけ効率よく最短で進めていくかを提案しないと、いい教育だと思ってもらえない。量より”質”を求める教育が前提なんです。確かに、質は大事ですよ。無駄なことは省いたほうがいいですしね。でも、量をこなした人じゃないと質を語る資格はないと思うんです。量を経験していない人は、すぐに心がポキッと折れちゃうから。
笠本:わかります。それから今の教育の伝え方だと、機械のようになっちゃうじゃないですか。パターンで覚えるだけだとイレギュラーな対応ができなかったり、「それ言いました」「それやりました」で終わっちゃう。そうじゃなくて、僕らの仕事は相手に伝わったかどうかが重要。そこを”効率”で推し進めちゃうと、難しいですよね。
吉田:僕の座右の銘は「山のふもとの肥えた豚にならず、頂上の痩せこけた狼になれ」。ご飯をいっぱいもらえて楽な生活をして一度も頂上を見ない人間じゃなくて、痩せこけても頂上に登っていく狼のような人間になるという意味なんですが、そうじゃないと頂上の世界を見ることはできないんです。そういう生き方をするかしないかは、自分のスピリット次第。あとは、それについていく体力の鍛錬しかないですよね。サロンワークというのは、一番の鍛錬になるんですよ。
笠本:まさに、そうですね。あとは、頂上に登ろうとする過程で「こうなったらどうしよう」と考えないことです。何も決まっていない先のことを考えたら、どうしてもネガティブになりますよね。目の前のことだけに集中すれば、余計なことは考えないんですよ。どうにもならないことは、悩まないことです。
吉田:若いのに、老後のことを心配するとかやめたほうがいいよね(笑)。そんなことは、老後になってから考えればいい。どうにもならないことは考えず、変えられないことは受け入れるだけです。僕は一週間後に人生最大のピンチがあることが分かっていても、その日までの6日間は笑って過ごせるタイプなんですね。365日お酒を飲んでいるし食べ物も気にしていないけど、体を鍛えているしメンタルも強いから、30年風邪を引いたことすらないんですよ。動くこと、食べること、寝ること。シンプルだけど、それが長く現役でいるためにも大事なことかな。
後編へ続く >>
(文/織田みゆき 撮影/宮崎洋)