【黒肌&アラ還美容師】50代後半でフリーランスに。還暦美容師 吉田ケン×笠本善之が語る美容師の”真髄”。原点に戻って理解した仕事の原点と醍醐味
そもそも、目指すゴールを間違えてた(笑)
——吉田さんは62歳、笠本さんは59歳と伺ったのですが、お二人の周りには、同世代で現役でサロンワークをしている方はいますか?
吉田:僕のまわりは、男性はいるけど女性は少ないですね。一旦、育児をしてパートでカムバックというのはありますけど。
笠本:僕のまわりは、男女共にいないです。経営者として抜けていくなら別ですけど、みんな倒れるまで美容師を続けられるイメージがわかないと思うんですよ。自宅サロンみたいなところでしたら、続けられるとは思うんですけど。
吉田:僕も若い頃は、まさかこの年齢まで現場でやろうと思ってなかったですよ。40歳で退いて、経営に徹しようと思っていました。他業種への挑戦も含め、会社を育てていくつもりでいたので。まだ夢半ばだから叶えていくつもりではいますけど、今はサロンワークへの思いが変わって、倒れるまでやろうと思っています。というのも、50代後半でフリーランスになり、そこで美容師の原点に戻れたんですね。お客さま全員が、以前のラグジュアリーサロンよりもマンツーマンでやっている今の方がいいって言ってくれたんです。お客さまの満足度が格段と上がったんですよ。僕自身も、じっくりと一人ひとりと向き合う時間を通して、サロンワークの楽しさを再認識できたんですよね。
笠本:全く同じ気持ちです。僕はフリーランスを経験するまで大型サロンで9人同時施術をしていて、マンツーマンは”都落ち”くらいに思っていたんですけど、今は気持ち的に全然違っていて。お客さまの満足度もはるかに向上しましたし、こんなに素晴らしい施術スタイルはないなと思っています。
吉田:若いときはシャンプーをしなくていいカットだけのスタイリストに憧れていましたし、ブローもしないのを目指していたんですよね。ブローしない先輩がカッコいい…って(笑)。でも今思うと、そもそも目指すものが間違っていたんだなと思うんです。
笠本:本当にそう。エラくなったら自分でブローしなくていいんだ、シャンプーしなくていいんだって思ってました。同時に、掛け持ちすれば売上のパイが大きくなるからエラいと思ってたんですよ。
吉田:美容師なのに、なぜそこを目指したんだろう(笑)。それって、単に機械の一部になるだけなんですよね。仕事として、血が通ってないんですよ。
笠本:美容師を目指した理由として「髪を綺麗にして喜んでもらうのが好き」という原点があったのに、それが途中で薄らぐんですよね。大きな売上や大勢を回すカッコよさに目がくらんで。
吉田:だから大事なのは、売上じゃないんですよ。もちろん、それは評価のひとつの形ではあるけど、やはりお客さまの満足度の方が重要なんです。
笠本:この気持ちに辿り着くには、僕らのように太平洋の荒波にもまれてこないとわからないかもしれない。全方位的に、さまざまなことを体験してくることが必要というか。若い頃からマンツーマンだけをやってきた人とは、見えている景色が違うと思うんですね。体験を経て原点に戻ったからこそ、今の環境の素晴らしさが認識できて、安心感が得られていると思うんですよ。
吉田:同感。僕らは安全パイで来ていないから、心から今は仕事を楽しめてますよね。