方針を変えたのは店を守るため。悪戦苦闘の中で、ずっと自問自答を重ねてきた―10年サロン「SORA」のブランディングストーリー前編
すべてを教えられなくても、ここでの経験がヒントになると気づいた
スタッフが辞めていくのは、いつもつらいです。辞める理由はいろいろありますが、「変わった」とか「昔と違う」と言われたこともありました。それってつまり「前のほうがよかった」ということですよね。でも、僕らは僕らで経営者として店を維持していくために、変わらなくてはいけない部分もある。それが受け入れられなかったとき、いつも難しさを感じます。
お店を経営していて思うのは、そばにいる間に教えることがすべてではないということ。例えば、僕が前のサロンを辞めたときには社長の気持ちがわかりませんでした。しかし経営者になった今なら理解できることがあるんです。子どもが反抗期を経て、家を出てから親のありがたみに気づくのと似ていますね。そうやって、いなくなってから気づくことも含めて教育なんじゃないかと思うんです。
もちろん、僕たちとしては辞めないでほしいし、そのための労働環境の整備や、楽しく働き続けるためのモチベーションを保つ努力はしていきます。でも、本人が決断したなら背中を押すしかないし、辞めることで気付けるなら、辞めないほうがいいとも一概には言えません。
このころに卒業していったスタッフの中には、今では僕と同じ経営者の立場になった子もいます。きっとその中でいろいろなことに気づくと思うし、『SORA』でたくさんの人と関わった経験がヒントになることもあるでしょう。僕自身が試行錯誤を重ねる中で、そんな風にバトンは手渡されていくんだと思うようになりました。
- プロフィール
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SORA
オーナー/北原義紀(きたはら よしのり)
1970年大阪府出身。専門学校を卒業後、都内の理容室で約6年間勤務。1年間渡英留学後、都内の美容室で活躍し、2002年に同僚の金子利彦氏、山根栄有氏とともに「SORA」広尾店をオープン。現在は「SORA」を都内で5店舗展開するほか、祐天寺の「SALON & “アンド”」「SALON“アンド”」、レンタル形式のヘアサロン兼アトリエ「ヨハコ」を経営。サロンワークをはじめ、ファッションショー、モード誌、広告撮影、教育を手がける。さらに「キタハラヨシノリプロジェクト」ではサロンプロデュースや商品開発、ハサミの企画開発や海外でのボランティア活動「ハサミノチカラ」など、業界の垣根を超えたさまざまな企画・構想を行うなど、多方面で活動している。
(取材・文/小沼理 撮影/河合信幸)