スタッフの入れ替わりに震災…長かった助走期間は、仲間と「下北らしさ」を突き詰めた青春のような時間だった -10年サロン「Magico」のブランディングストーリー前編
2011年〜2013年 方針転換期
立ち上げ時の借り入れ完済を目前に、震災の影響で再び銀行で借り入れ
震災直後は、やはり売上が大きく下がりました。法人化したとはいえまだまだ個人事業主と変わらない規模感ですし、そんな中で社員の給料もきちんと保証しないといけない。当時は立ち上げ時期の銀行からの借り入れをもうすぐ返済できるというタイミングだったのですが、再び借り入れをすることになりました。
本当は法人化してすぐに店舗を展開したいと考えていたのですが、おかげでしばらくは足踏みでしたね。借り入れの返済をしながら、『Magico』1店舗で力を蓄えているこの期間はとても長く感じました。
一方で、この時期はネットが急速に広まったため、集客がFacebookやInstagramが中心になっていき、『Magico』もSNSに力を入れるようになりました。ネットを活用する中で、震災後に落ちた売り上げを回復し、さらに伸ばしていくことができました。
個人経営から脱却し、大きな組織づくりにシフトチェンジ
この時期、『Magico』がオープンして5年以上が経ち、10年の節目が視野に入っていました。そんな中で考えていたのは、「これまで一緒に働いてくれたスタッフのための場所を提供したい」ということです。
『Magico』は「下北らしさ」を突き詰めた個性的なお店として作り上げたので、多店舗展開するとオリジナリティが薄くなってしまうのではないかという懸念もありました。一方で仲間が増えてくると、年齢や微妙な好みのテイストなど、同じ『Magico』の中でも少しずつ違いが出てきました。その違いを生かしてフロア分けを工夫していましたが、それでも働き方や価格帯への考え方などでなかなか折り合いがつかないことも増えてきたんです。
そんな状況に、仲間たちがこの先も自由に、自分らしく働くためには、やはり店舗展開が必要になってくると感じはじめました。そのためには、僕自身がもっとビジネスについて知る必要があります。
そこで、2012年ごろからは、マーケティングを勉強したり、ビジネススクールに通ったりして経営のノウハウを学んでいきました。お客さまだけでなく、従業員の満足度も考えて労働環境を整えないといけないんだ、とはっきり自覚したのもこの時期です。それまでのアットホームな個人経営から脱却して、大きな組織を作るために動きはじめました。
新しいことを学ぶのは楽しかったです。長らく考えていた組織づくりがようやく実現できそうで、ずっとワクワクしていましたね。
ただ、スタッフにはなかなか自分の思いが伝わりませんでした。みんな下北らしさを追求して、お客さまに寄り添うのは好きだけど、サロンを拡大したり、有名になったりすることにはあまり興味がなかったんです。『Magico』はもともとそういう人を集めてできたサロンなので、そりゃそうだとは思うのですが(笑)。
そんな中でも、全員が共有していたのは「下北沢で一番のサロンを作りたい」ということ。その思いを生かしつつ店舗を拡大するにはどう伝えればいいかを常に考えていましたね。
このころには、僕ももうすぐ40歳。当初考えていたよりは店舗展開に時間がかかってしまいました。長い助走期間で、「遠回りしてしまったなぁ」とも思います。でも、仲間たちみんなで『Magico』を作り上げたのは、本当に楽しい時間でした。僕にとっての青春だったと感じています。
- プロフィール
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Magico
代表/上原潤一郎(うえはら じゅんいちろう)
神奈川県出身。大手ヘアサロン、下北沢のヘアサロンを経て、2006年に31歳で独立し下北沢に『Magico』をオープン。現在は東京を中心に13店舗を展開するほか、2020年にも新規店舗をオープン予定。
(取材・文/小沼理 撮影/河合信幸)