オープン5年目にゼロからのスタート。正しさのない問いの決断とは? ―10年サロン「KATE」のブランディングストーリー前編
2015年〜2016年 心機一転期
自分のデザインを追求するために思い切った、「移転」の決断
2015年2月には、表参道店を今の店舗に移転しています。この移転は僕の中ではすごく大きな意味があり、心機一転の気持ちでした。
2011年のオープンから売上は好調だったのですが、一方で自分が理想としていたサロン像とは離れてきてしまっていたんです。当時は経営者である自分の理想とするサロンイメージと、雑誌媒体を担当していたスタイリストの作るサロンイメージにズレが生じていました。これによって、下の子たちがどっちのイメージを目指せばいいのか迷いはじめていました。
そこで、そのスタイリストと店の今後について、何度も話し合いました。これは決してどっちが正しいという話ではありません。だからこそすごく難しかったのですが、彼は彼で、僕は僕で自分のやりたいデザインを追究しようという話になり、最終的に彼はお店を抜けることになりました。
売上も大きかったし、彼をリスペクトしているスタッフも多かったので、スタッフが大量にやめてしまう可能性もありました。しかし、結果的にはスタッフは全員残ってくれたんです。
彼とは今でも仲がいいですが、当時は険悪な雰囲気になったこともあったし、『KATE』の歴史の中でも一番大変だったできごとだと思います。それだけの一大事だったからこそ、店舗を移転して、また一からちゃんと作りなおす必要があったんです。
無理に方向転換させてはいけない。時間をかけて、スタッフに理想のイメージを伝えるべき
移転後は、「こういう美容室を目指していきたい」というイメージをスタッフに時間をかけて説明しました。『KATE』のテーマである「トレンド・似合わせ・再現性」について、細かく説明していく作業です。
スタッフそれぞれの好きなイメージを尊重しながらも、サロンイメージは統一したいと思っていました。そのため「自分のやりたいジャンルでトップを目指そう、いろんなカットができるセレクトショップのような集団で、それぞれのトップになることを目指そう」と伝えながら、少しずつ方向転換できるようにしましたね。
具体的にやったことの一つとして、年に2回ビジュアル撮影をするようにしました。今期のビジュアルをどうするかをみんなで考えて、カメラマンやスタイリスト、モデルの方に自分たちで声をかけることで、方向性を共有していったんです。
もう一つが、移転による内装の変化です。移転前の店舗はウッディでカフェのような雰囲気でしたが、移転後はコンクリート打ちっ放しの、スタイリッシュな店にしました。空間が変われば気分も変わります。そんなふうに時間をかけて、お互いが無理なく変わっていけるようにしました。やっぱり、スタッフのことは何より大事にしたいんです。今では僕以上に『KATE』を理解してくれているスタッフもいると感じています。
店に新たな風を吹かせた、サロン初のスタイリストデビュー
この時期は大変なこともありましたが、うれしいこともありました。その一つが、現在共同代表である豊田光信(とよだみつのぶ)が加入してくれたこと。豊田は『SHIMA』のころに一緒に働いていて、その後はフリーランスで美容師をしていたのですが、僕に「一緒にやりたい」と声をかけてくれたんです。
彼は僕とはまったくタイプの異なる人ですが、僕のことをとても尊重してくれます。長年一緒に働いて培った信頼感もあり、共同代表として入ってもらうことに決めました。
現在は僕がビジュアルやブランディング、教育を担当し、豊田が数字分析などの細やかな作業を担当するというように、お互いに得意な分野で役割分担をしています。ここに、オープン当初からいるディレクター金野朋晃(こんのともあき)を加えた3人が中心になりながら、店が円滑にまわる仕組み作りをしていきました。
あと、このころにはアシスタントだったスタッフ2人がスタイリストとしてデビューしたことも一大ニュースでした。『KATE』ではこの2人がはじめてのデビューだったんです。おかげで店に若いパワーが満ちて、新たな風を吹かせてくれました。上のスタッフは「自分もしっかりしないと」と気が引き締まるし、いい相乗効果が生まれたと思います。そうしてスタッフが成長していくのは、店を経営していく中でも一番うれしいことですね。
- プロフィール
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KATE
代表/木下公貴(きのしたきみたか)
宮崎県出身。熊本ベルェベル美容専門学校卒業。「SHIMA」に15年勤務。銀座店の店長、エグゼクティブ・スタイリストとして活躍しその後2011年5月に独立し、KATEをオープン。2018年には2店舗目を熊本へオープン。「だれもが触れたくなるようなヘアーを作る」をモットーに、次の日からも形になる再現性の高いヘアスタイルや外国人風ニュアンスウエーブなどが得意。
(取材・文/小沼理 撮影/河合信幸)