自分が主役ではなく、スタッフが活躍するサロンづくりを。10年サロン「bianca」のブランディングストーリー前編
2009〜2015年 ファンベース構築期
オープン半年で減った客足、打開策は「コミュニティに入り込む」
オープン直後は『aquira hair designs』からのお客さまが思っていたよりもたくさんきてくれて好調でした。そのため、新規集客はそんなにしなくていいかなと思っていたのですが、やはり前の店のお客さまは徐々に遠のきます。その現実に焦りはじめたのが『bianca』のオープンから半年経ったころでした。
そこで、まずスタッフに地域のコミュニティに参加してもらいました。ピラティスやヨガ、陶芸教室などの教室やコミュニティに入ってもらうようにしたんです。僕はひたすら飲み歩いたりして、とにかく知り合いや友達を増やしていきました。
結局、僕たちがどれだけかっこつけても、それだけではお客さまはこなかったんです。街に根差して人となりからサロンを知ってもらったことで、地域の方々との壁が取り払われていった気がします。そのことを身をもって実感し、コツコツと信頼を積み上げていった結果、じわじわと客足が伸びていきました。
『bianca』はベンチャーキャピタル。鎌倉の環境が人材への投資に優位に
当時は鎌倉全体が活性化しはじめた時期でもありました。多くのITベンチャー企業が鎌倉に移転してきたんです。特に面白法人カヤックの柳澤さんが立ち上げた、ITで鎌倉を活性化させようという「カマコンバレー」のムーブメントが盛り上がり、クリエイティブ人材が集まるようになりました。僕自身もカマコンバレーに参加したりして鎌倉の未来を感じ、大きな影響を受けました。
僕は、『bianca』はスタッフにとって、ベンチャーキャピタルのように成長を支援していく存在でありたいと思っています。スタッフをそれぞれの個性を持ったスタートアップ企業のように捉え、彼らが何で成功していきたいかを確認しながら、その結果を出すために時間や人脈、お金、熱量、想いを投資していく…そんなイメージですね。
『bianca』が育成にかける時間や費用は、他サロンよりも圧倒的に多いと思います。それは、彼らがいずれ何倍にも大きな存在になる可能性を信じ、お金や時間、環境、熱量、想いのすべてをかけることを投資と捉えているからです。こうした考え方が他のサロンとの違いを生み、独自性あるブランディングにもつながっています。
ただ、このようなやり方がどのサロンでもできるわけではなく、特に都会では難しいかもしれません。都会では賃料や広告費もかかりますし、客数と時間で数字と労務管理のバランスとるのが大変だと思います。そもそもサロンワーク以外の時間がなかなか取れないのではないでしょうか。
一方『bianca』は、当初から鎌倉でのブランディングと労働環境整備をサロン経営における優先順位の最上位にしてきました。特別に広告費をかけず、無理な労働環境にせず、クオリティを上げながらオペレーションの最適化と技術スピードの最大化で生産性の高いサロンをシンプルに追求し続けました。なぜそこまでするかもシンプル。創造性あることには時間も精神も余裕が必須だと思っているからです。
僕もスタッフも、売上規模だけを気にしてはいませんでした。もともとの考え方もありますが、特に今は『bianca』がブランドとなったことによって、数字が生まれる仕組みが確立しているからです。
適正な価格設定をして、付加価値の高い技術を持ったスタッフを育て、限られた時間の中で細かい効率化を少しずつ進めていく。緻密ではありますが、そうすれば必ず生産性はある程度の高さをキープできるはずです。スタッフも数字だけで評価されないので、よりクリエイティブや自身のスキル向上に時間を費やせます。
僕たちは「自分を高める時間を大切に思う」、そんなカルチャーを理想としています。『bianca』では鎌倉から発信するという、エリア発信のメリットを最大化・最適化しながら、ブランディングを推し進めていきたいと思っています。
- プロフィール
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bianca
代表/中井宏昭(なかい ひろあき)
神奈川県出身。横浜商業高等学校別科卒業後、1店舗をへて独立、1999年に『aquira hair designs』を金沢文庫にオープン。2008年に移転、鎌倉・由比ガ浜に『bianca kamakura』をオープン。現在はサロンブランディングを中心に、撮影のディレクションやセミナー講師、商品開発等で活躍する。また、スタッフから優勝経験を持つコンテスターを次々と輩出。鎌倉のローカルブランドから「日本のハイブランド」を目指している。
(取材・文/小沼理 撮影/河合信幸 撮影協力/コペン ローカールベース 鎌倉(インタビューカット))