教育もクリエイティブの一環だ。40歳で迷いがなくなった。順風満帆なサロン経営の秘訣―10年サロン「ABBEY」のブランディングストーリー前編
2007年〜2012年 リニューアル期
コンセプトにとらわれるより、時代にあわせて変化する柔軟さを大切に
2007年に『BAPE CUTS』を『ABBEY』としてリニューアルオープンしました。当時の1号店があったのは、表参道のGUCCIの裏のビルです。広さは50坪ほどで、スタッフは25人でした。全員『BAPE CUTS』から引き継いだスタッフです。
『ABBEY』という店名は、ビートルズの『アビーロード』というレコードからつけました。『アビーロード』は僕の生まれた1969年に発売されていて、僕がはじめて買ったレコードでもあるんです。そうした個人的な思い入れや、Aからはじまる名前の検索しやすさなどから決めました。
当時のコンセプトは「洗練されたあたたかさ」。かっこいいけれど、かっこつけていない、自然で人間的なおしゃれさを目指して掲げた言葉です。
ただ、コンセプトは常に一貫しているわけではなくて、そのときによって変わっています。コンセプトにとらわれるよりも、時代によって変えていける柔軟性を重視しているんです。少し前は外見だけでなく、心や内面も美しくなるというメッセージを込めた「beyond beautiful」を掲げていました。
物件探しで大切なのは分析とインスピレーション
表参道の『ABBEY2』
お客さまは『BAPE CUTS』にきてくれていた人が、ほぼ全員『ABBEY』にきてくれましたし、売上は安定していました。さらに、『ABBEY』になったタイミングで集客力のあるスタイリストが一人入ったので、むしろお客さまがきすぎてしまい、すぐに2店舗目の出店に向けて動きだすことになりました。
物件は勢いで決めるのではなく、立地やお客さまの動線など、いろんなことを分析して、「ここじゃないと駄目だ」という物件を選んでいます。ただ、同時にインスピレーションも大切。「勢いで決めない」ことと相反するように思えますが、「ちょっと嫌だな」と感じる物件に決めてもよい結果はありませんから。みなさんが引っ越しをするときと同じです。
そうして2010年に、同じく表参道に『ABBEY 2』をオープンしました。徒歩5〜6分ほどの距離で、コンセプトも同じです。新店のために新たにスタッフを採用したというよりは、当時いたスタッフを半々に振り分けました。みんな「馴染みのある本店も、新しいお店もいいな」と、ワクワクしてくれていたようです。
40歳を過ぎて、心に余裕が生まれた。迷いのない決断力が、サロン経営の安定を生む
『BAPE CUTS』ではスタッフがいっせいに辞めたことがありましたが、『ABBEY』になってからはスタッフの離職で困ったことはありません。定期的な面談で将来のビジョンや給与面の相談をしていることや、スタッフ間の仲がいいことが理由かもしれません。
『ABBEY』をオープンしてからは本当に、経営が危なくなるような事件がなく、すごく安定しています。「どうしてだろう？」と考えてみると、僕自身に心の余裕が生まれたことが関係しているように思います。
僕は今49歳なのですが、40歳になった2009年ごろ、ある尊敬している方から「不惑の40だね」と言われたんです。「不惑の40」とは、40歳になると人生に迷いがなくなるという昔からの言い伝え。たしかにそのころから、自分の中で決めかねていることがあってもすぐに決断できるようになったんです。コンビニのおにぎりも、前はどれにしようか迷っていたのに今はパッと決められます（笑）。迷いがなくなり、心に余裕が生まれたことが、『ABBEY』の経営にいい影響を与えているのかもしれません。
まだ40歳になっていない人は、ぜひそれまでに自分をしっかり高めていってください。そうすれば、40歳になったときに、迷いのない決断力が生かされてくると思います。
- プロフィール
-
ABBEY
オーナー／松永英樹（まつながひでき）
長崎県出身。1989年に「PEEK-A-BOO」に入社。最年少の28歳でアートディレクターに就任。その後、同サロン原宿店店長に就任し2002年に退社。その後、ファッションブランド「A BATHING APE」プロデューサーNIGO®︎氏と協業し原宿に「BAPE CUTS」をオープン。2007年には新たなブランドサロンとして表参道で「ABBEY」を立ち上げる。現在は、「ABBEY」「ABBEY2」「MEN’S SALON WLT CUT CLUB」「Rakuten Hair Salon ABBEY楽天ABBEY」を展開。
（取材・文／小沼理 撮影／河合信幸）
