「ネオ和風バーバー」。ホッとするのに新しいサロンの作り方
三軒茶屋の世田谷通り沿いに家紋の入ったのれんを掲げている和風バーバーがあります。その名も「JUNES man バーバー三軒茶屋」。2016年11月のオープンから順調にファンを増やしているそうです。今回はそんな和風バーバーがどのようにして生まれたのか、メンズオンリーサロンJUNESグループのGMを務める松村翔(まつむらしょう)さんに教えていただきました。
いくつになっても無理なく付き合えるのが「和」の魅力
JUNESはカリスマ美容師ブームの真っただ中に、トレンド発信地の原宿で「メンズオンリーサロン」打ち出し、普通の理髪店とは一味違う、トレンドを押さえたメンズスタイルを提供してきました。スタッフ全員が理容師免許を持っているバーバーです。 原宿、目白、中野、早稲田にサロンがありますが、それぞれに個性があります。例えば原宿店はスタイリッシュな空気感を大切にしており、学生が多い早稲田店はピストバイクやDJブースが店内にあって等身大の洒落感を演出。三軒茶屋店は「和」がテーマです。 今、ニューヨークや西海岸のオーセンティックな雰囲気のバーバーが流行っています。それがカッコいいのは認めるけれど、JUNESで働くスタッフのノリとはちょっと違うなと思ったんです。 ここ数年は、海外のアパレルブランドやセレクトショップも、さりげなく盆栽を置くなど、和の要素を取り入れています。星野リゾートが運営する「星のや東京」さんも話題になっています。和の流れが来ていると感じたので、三軒茶屋店は和風バーバーにしたのです。 和の魅力は何歳になってもストレスなく付き合えるところだと思います。三軒茶屋店のターゲットは大人の男性ということもあり、和のコンセプトは受け入られるだろうと考えました。やりすぎるとダサくなる…「和」は加減が難しい
和風は一歩間違うと、一気に野暮ったくなってしまうものだと思います。僕らがやりたいのは古き良き和ではなく、新しさをまとった和です。そのため和の要素の出し方にかなり気を遣っています。 たとえば、一般的な理髪店の待合いスペースにはマンガが置いてあると思います。三軒茶屋店にもマンガはあるのですが、表紙が見えないように白いカバーを付けました。ソファに座ったお客様の目につくところには、手軽に和を感じられるグッズを並べています。 スタッフは暑い時期をのぞき、白衣風のユニフォームを着用しています。普通の白衣はちょっとシルエットが緩いということで、少しシェイプされた特注品です。お客さまに、日本の理髪店のよさである清潔感を感じていただくことが狙い。シューズは足袋のようなスタイルだけど新しいナイキの「エアリフト」で統一しています。 「引き算の美学」と表現される日本ならではのミニマムな空間づくりも意識しています。たとえば、シャンプー台をあえて移動式にしたのはそのため。固定式よりも、お客さまに広さを感じていただけます。和の象徴である盆栽も主張しすぎないものを選びました。京都の寺社仏閣や銀座の和菓子屋を視察
サービスでの演出にも工夫しています。たとえば、シャンプーやヘッドスパなど、お客さまがくつろぐタイミングでは靴を脱いで、使い捨てのスリッパに履き替えていただいています。座敷に上がるときに靴を脱ぐのと同じように、一呼吸おくことで和の空気を感じてもらうのが狙いです。仕事帰りで疲れているお客さまに、革靴を脱いでリラックスしていただきたいという想いもあります。 ヘッドスパのフレイバーを選んでいただくときも、お茶屋さんで茶葉の香りを嗅いだり、テイスティングしたりするときのように、桐箱のなかにある入れ物を開けて香りを試して選べるようにしています。普通に選ぶよりも、ひと手間挟んだほうが、和のおもてなしの演出ができると考えたからです。こんな風に、和の「なんかいいよね」という感じを、バーバーでどうやって具現化するのか考えながらやっています。 アイディアのヒントは、いろいろな場所に足を運びながら見つけています。三軒茶屋で和風バーバーに挑戦するにあたり、オーナーと僕、三軒茶屋店の店長で京都に行きました。京都の寺社仏閣や庭園には空間的な広さを感じさせる「抜け」があります。それが、どこまで表現できているかわかりませんが、京都を視察したことは三軒茶屋店にも少なからず影響を与えているはずです。そのほか、銀座の「東屋(ひがしや)」という和菓子屋さんの「和なのに新しい」雰囲気も参考にしています。 店舗デザイナーさんに、オーナーと僕の視察に同行してもらい、1日かけて都内を歩き回ったこともあります。たとえばセレクトショップに立ち寄ったら、僕たちの好きな空間や床の質感など細かい好みや、和風バーバーを作るにあたっての想いを伝えることが目的です。この時間があったから、納得できるかたちで三軒茶屋店をオープンできたのだと思います。 >「のれん」の集客力を侮るべからず- 1 2