お客さんの「カルト化」がブランド価値につながる。床屋を新たな“溜まり場”に進化させるMERICAN BARBERSHOP FUKの試み
これからのサロンに必要なのは、お客さんを「カルト化」させること
『MERICAN BARBERSHOP FUK』のような、バーバーとコミュニティスペースがくっついたサロンはもっと増えていくべきだと思います。美容・理容業界はすでに成熟しきった業界。長くやっていくためには、ただヘアカットがうまいだけでは生き残れないでしょう。
今、「すべてのビジネスはファッション産業化する」と言われています。ブランド戦略家の山口周は、ビジネスが提供できる価値には3つの種類があると言っています。一つが「機能的便益」。バーバーでいうと、カットができることです。次が「情緒的便益」。気に入る内装や雰囲気があることですね。
多くのサロンやバーバーはこの2つで終わっていますが、これからのサロンに求められるのは3つ目の「自己実現的便益」です。なにかというと、そのコミュニティに所属している自分をクールだと思えること。つまり、しっかりとしたコミュニティを築いて、お客さんをカルト化させることが重要なんです。バーや喫茶店のような「溜まり場」は、そのコミュニティづくりに効果的ですよね。
スタッフ一人ひとりの「自分の文脈」をサポートしてコミュニティを広げる
スタッフもカットがうまいのは当然で、それ以上が求められます。僕がバーバーのスタッフに求めるのは「自分の文脈があること」。2019年には、ファッションが好きなスタッフの一人が、自分でデザインした8,000円のTシャツ150枚をクラウドファンディングで即完売させました。
やりたいことがあるのはカッコいいし、メリケンもそれをサポートすることで、さらにコミュニティを大きくできる。スタッフには、やりたいことはサポートするからどんどんやれと伝えています。
サロンをどうやってコミュニティ化するかはいくらでも可能性があります。たとえば、メリケンは『ブルックリン・ボウル』というニューヨークのボウリング場にも影響を受けています。昔はよくボウリング場に行ったけど、大人になったら行かなくなったという人は多いじゃないですか。『ブルックリン・ボウル』はバーカウンターやライブステージを併設することで、大人たちがボウリング場に遊びにくるようにしたんです。文脈を変えたわけですよね。
他にも、バッティングセンターとか、プールとか…なんでもアリだと思います。当然、メリケンのようなバーや喫茶店でなくてもいい。メリケンにはメリケンの文脈があるから、それとは違う自分たちの文脈でコミュニティを作ることが重要です。
バーバーのクールさを突き詰めて、メリケンから新しいカルチャーを発信していきたい
今後は神戸の『MERICAN BARBERSHOP』と『Breath beauu』を統合して、より大きな『MERICAN BARBERSHOP』をオープンする予定です。バーバーだけど性別を問わずこられる、世界最大のノンバイナリーなバーバーショップを目指します。美容、理容というお客さんに関係ない区別を取り去って、バーバーの持つクールさを突き詰めたいと思っています。
性別を問わない床屋はこれまでもあったけど、あまりカッコいいものではありませんでした。マーケットから見放されてしまった床屋が、「美容が流行っているので取り入れました」というものが多くて、僕としてはクールだと思えない。新しい『MERICAN BARBERSHOP』は、ジェンダーの価値観が多様化する世の中にあわせたポジティブなノンバイナリーバーバーです。
バーラウンジのイベントも、もっとおもしろいことを仕掛けていきたいし、ブランドを磨く中で、スタイリング剤などのグルーミングプロダクトを作りたい。メリケンを通して、理美容業界に新しいカルチャーを発信していきたいと思っています。
- プロフィール
-
MERICAN BARBERSHOP
代表/結野多久也(ゆいの たくや)
外資系IT企業で約4年間勤務したのち、実家の日仏商会を継ぎ、経営を立て直す。2011年に美容室「Breath beauu」をリブランディングし、サロン経営を開始。2015年にバーバー「MERICAN BARBERSHOP」をオープンし、アメリカのバーバー文化を意識したスタイルで人気店に。2018年4月に2号店となる「MERICAN BARBERSHOP FUK」を福岡にオープン。「バー×床屋×喫茶店」で、業界内外から注目を集める。
(取材・文/小沼理、撮影/KOYABU SATOSHI)