街の美容室vol.13 常に変化し続ける秋葉原のサブカルチャーと地元愛サロン fuwat平野アキさん
−8年間、秋葉原に通われて、街の変化を感じていらっしゃいますか?
そうですね。ぼくが趣味で秋葉原に通い出したのは中学生の頃です。90年代の初頭ですが、当時歩いている人は男性ばかり。飲食店やコンビニも本当に少なかったです。でも今は、女性好みのお店も増え、飲食店もB級グルメの聖地といわれるほど増えています。マンションやホテルもどんどん建てられていて、居住地としての側面も大きくなり、それに付随して生活用品を取り揃える店もできています。今後、美容室もさらに増えるのではないでしょうか。
家賃も高くなってきていて、個人店が少なくなり、大きな店舗が増えています。これまで個性のある個人店におもしろみを感じて通っていた人が、そうした店がなくなるとともに秋葉原から離れていってしまうのはさみしいですね。
観光客向けのバスツアーは「上野・浅草・秋葉原」がパッケージになっていますが、最近は買い物をするより体験を求める傾向にあります。今はまだフィギュアを買いにくる外国人も多いですが、ゆくゆくは「オタク文化」に関する物を扱う店も衰退してまた新しい街に変化していくのかもしれません。
−盛り上がっていたひとつの文化が衰退していくのは、少しさみしいですね。
そうですね。昔は秋葉原の路地は、変なものに出会えるワクワク感がありましたが、今は少なくなっています。でも、うちは路地裏のワクワク感を続けていきたいと思っています。だから窓際に変な置き物を並べたり、外には下町っぽく植木を置いたりしているんです。外国人観光客が、店の前で足を止めて写真を撮っていたりすると、「おもしろいと思ってもらえたんだ、よし!!」という気持ちになります(笑)。
秋葉原はすごい勢いで進化し続けている街です。都会では空き物件が多くて進化が止まっているところもあるけれど、ここでは空き物件がすぐに埋まってしまう。それは街が生きている証拠だと思うんです。人もお金も集まり、停滞することなく動き続けています。その動向を常にチェックしながらも、自分たちのやりたいこと、オリジナリティは貫いていきたいですね。
−秋葉原の街のよさについて、改めて教えていただけますか。
あらゆる要素、古いものと新しいもの、さまざまな文化が入り混じり、集まる人の種類も多岐にわたっていて常に動き続けているところが秋葉原のおもしろさだと思います。多様でぐちゃぐちゃで、潮目になっているような…。なんでも許してもらえる懐の深さもあって、さまざまな個性の人と出会える場所でもあります。
96歳のお客さまは、タトゥーやたくさんのピアスをしたスタッフと話して「話してみるといい子たちだね」と言ってくれますが、その光景は、とても秋葉原らしいなと思うんです。つい先日は、漫画『NARUTO-ナルト-』のTシャツを着て、登場人物のタトゥーを入れた外国の人がふらっと入ってきて、スタッフと意気投合していました。そうして、年齢や文化を越えて、人と人が繋がりあえる場所です。
ぼくは自分の知らない世界の人や、美容以外の好きなことを語り合える人たちとお酒を飲むのが好きなんです。たとえば、ガードレールとかマンホール好きの人の集まりとか、ファッションや漫画、映画、小説好きの人の集まりとか、いろいろな趣味の人たちと交流をもつようにしています。秋葉原では求めれば、さまざまな趣味をもった人と出会えます。ここだと受け入れてもらえるという理由で、秋葉原に居場所を求めにくる人もいます。そうしていろいろな人と出会ってエネルギーをもらうことで、美容業界の型にはまらず、視野を広くもって、自分らしく楽しく仕事をすることができているのだと思います。
最近、誕生日にお客さまからいただいた『サ道』というサウナの漫画の影響で、サウナにはまっています。秋葉原に毎日通うようになって8年目にして、こんなにたくさんのサウナがあったことに気づきました。秋葉原にはまだ自分の知らない顔がたくさんある…。奥深くて、飽きない場所ですね。
−最後に、今後の抱負を教えてください。
ぼくは「温故知新」「臨機応変」をテーマに仕事をしていますが、秋葉原は、まさにその2つの言葉がぴったりはまる街だと思います。古いものに新しい発見があり、街や人の動きに臨機応変に対応していく…。
変化していくなかでも、本当に大事なものは見失わないようにしていきたいですね。多様な個性をもつお客さまを受け入れることのできるよう、さまざまな顔をもった懐の深い場所であり続けたいと思います。
- プロフィール
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fuwat オーナー・スタイリスト
平野アキ(ひらのあき)
千葉県出身。日本美容専門学校卒業。都内美容室で働いた後、2010年fuwatオープンとともに入社。2013年店長に就任。2017年にすべての業務を引き継ぎ、オーナーに。美容師歴14年。トレンドを取り入れながら、お客さまの個性を引き出すスタイルづくりで子どもからお年寄りまで幅広い年齢層に人気
(取材・文/揚石 圭子 撮影/泉山 美代子)