「時代の変化に柔軟に対応してきた」日本最古の理容室「麻布 I.B.KAN」が明かす長く美容室を続ける秘訣
親の背中を見て息子が家業を継ぐことを決意
-息子さんが八代目蔦屋吉五郎を継ぐ予定だそうですが。
はい。2018年と決めています。ちょうど創業200年になるのでキリがいいかなと。
-継ぐための条件はありますか?
ないですね。伝えたいことも特にないし(笑)
-今、なかなか家業を継ぎたいと言う若者が少なくなってきているなか、継ぐと言ってくれているのはありがたいことだと思います。
そうですね。私は継がせたいと思ったことはないんですよ。『継げ』といったこともないし。でも継ぐって言ってくれたのは、背中を見てくれていたんだと思います。働いている私の背中を見て『あぁ、この仕事も悪くないな、継いでもいいな』って思ってくれたんじゃないかな。
そこで八代目蔦屋吉五郎を継承する西原地昭さんに、“お店を継ぐこと”について伺いました。
-2018年に八代目を継承されるそうですが、継ぐことに躊躇はありませんでしたか?
西原地昭:大学生の頃、そろそろ就職を考えようというときに、僕のテーブルの席に理容専門学校のパンフレットがそっと置いてあったんです。それで「やっぱり継がせたいんだな」と思って。私自身も、中途半端な会社に就職するくらいなら継ごうと思っていたので、すんなりと受け入れられました。
私が一番大切にしているのは、“究極のいつも通り”。理容室のお客さまの多くは、髪型も劇的な変化ではなく、安定を求めていらっしゃる方が多いので、椅子に座って目を閉じて、目を開けたら、いつも通りに仕上がっているということを目指しています。それってすごく難しいことなんですけどね。2年後に名前を継がせたいというのは、周りからなんとなく伝え聞いています。気負いはあまりありませんね。
名前をついだからといって父がすぐに引退するわけでもないし。僕にも息子がいるのですが、継ぎたければ応援するという感じです。息子の人生ですから。でも、七代目のように、この場所で輝く親父の背中はちゃんと見せておこうと思います
-最後に七代目。美容界・理容界の経営者さんたちに、店が長く愛されるためのアドバイスをお願いします。
まずは時代の波に合わせる柔軟性を持つことと、店のファンを作ること。見落とされがちだけど、地域に根付く経営をすることも重要だと思います。うちも地元の組合に入ったり、中学生の職業訓練などにも参加しています。その地域の人々と情報交換をしたり協力し合っていったら、店も街も活気づくんじゃないかな
- プロフィール
-
麻布I.B.KAN
オーナー/西原道雄(にしはら みちお)
1818年から続く理容店の長男として昭和24年に生まれる。高校卒業後、理容学校に進学。他店で5年間修行したのち、ヘアサロン西原(麻布I.B.KANの前身)へ。20年ほど前、七代目蔦屋吉五郎を襲名。麻布十番生まれ、麻布十番育ち。
(取材・文/酒井美絵子 撮影/QJナビ編集部)