【YouTube日本髪】この美しい日本文化を失いたくない!戦後まもなく開業した山﨑伊久江美容室にて“やまと髪”の秘技を完全収録
日本髪は、伝統の美と技が息づく芸術。江戸時代から続くそのスタイルは、結婚式や成人式といったハレの舞台で今もなお多くの人々を魅了しています。そこでリクエストQJのYouTubeチャンネルでは新年1本目の企画として、日本髪にフォーカス。出演してくれたのは、古来の美容文化を受け継ぎ今に伝えている山﨑伊久江さん(2代目)です。
ここではYouTubeの収録の模様をレポートすると共に、日本の美容文化の礎を築いてきた老舗サロン山﨑伊久江美容室(現SALON IKUE YAMAZAKI)についてご紹介します。
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日本髪を現代の形へ。やまと髪の誕生
ー今回はYouTubeへの出演ありがとうございます。2代目を襲名し、老舗サロンの代表として日本髪文化を継承する山﨑さんに、地毛から結い上げていく技法を見せていただきました。この結い方は山﨑伊久江美容室独自の「やまと髪」と聞きましたが…。
もともとは私の祖母(初代・山﨑伊久江)が、日本髪を現代風に考案し、「やまと髪」として1973年に発表したものなんです。従来の日本髪と異なるのは、鬢付け油(びんつけあぶら)を使わず、ヘアスプレーでセットすること。鬢付け油は、江戸時代から日本髪を固めるためのワックスとして使われてきたもので、みつろうや菜種油などが原材料になっているんです。でも、この鬢付け油は、一旦髪の毛につけると普通のシャンプーでも落とせないくらい強力で…。油落としのために、洗浄力の高い特殊なシャンプーを使う必要があったとか。そこで祖母が、ヘアスプレーだけでセットできる日本髪として、「やまと髪」を作りあげたんです。その当時としては画期的だったようです。
初代・山﨑伊久江さん @ikue-yamazaki.co.jp
日本髪の形状をキープするためには、鬢付け油を使うんですよ。でも、一度髪についたらなかなか落ちなくて、2度洗い、3度洗いが必須です。ちなみに昔の人は、鬢付け油を髪につけっぱなしにして過ごしていたようですよ。
婚礼では、白無垢からウエディングドレスへとお色直しをするシーンがあります。でも地毛で日本髪に仕上げてしまったら、その後のお色直しでドレスに合わせたヘアチェンジができないんですよね。
山﨑伊久江美容室のブライダル部門では、皇族の方のご婚礼なども代々担当させていただいています。そんなさまざまな現場の声から生まれたのが、初代・山﨑伊久江が考案した「やまと髪」でした。ヘアスプレーだけで仕上げる結い方なので、お色直しの際は手早くヘアチェンジ可能。ロングヘアでなくても結い上げる方法として理論化させたのです。
ー「やまと髪」が生まれたのは、時代のニーズに応じた必然の結果だったんですね。
そうなんです。実は「やまと髪」のシルエットも特徴がありまして、より現代的なニュアンスを加えたすっきりとした襟足がポイントです。日本髪でいう襟足の髱(たぼ)という部分ですが、あえて「やまと髪」では首元を長く細く見せるよう、襟足の美しさを際立たせるフォルムで色気を演出しています。
また鬢付け油を使った日本髪では、しっかりと固めて一糸乱れることなく仕上げます。でも「やまと髪」では油っぽい光沢感はなく、自然な髪の質感を残したまま結いあげているので、うぶ毛なども自然な形で残しています。それも今の時代感覚に近づけた進化の形なのかなと思っています。
ー芸術的な仕上がりの美しさだけでなく、無駄のない所作にも目が釘付けでした。特別な道具を使うわけでもなく、サロンにあるものだけで作れるんですね。
日本髪を結うという機会は滅多にないと思いますが、ぜひ美容師さんには習得してもらいたいと思っているんです。日本髪も着付けも、後世へと継承していきたい日本の文化ですからね。海外で活躍したい、とか、ヘアメイクをやりたいという方にも、いつか求められる機会があるはずですから。
もし実際に機会がないとしても、日本髪を結うという工程の中には、美容の基礎がたくさん詰まっていますので学んでおいて損はないはず。崩れない土台作りはもちろん、下地作り、ピニング、逆毛などアップに必要な技術は全て身につけられますし、立体的な造形を作る感覚、上下左右のバランス感覚など美的感覚が磨かれます。
日本髪の美しさの基準は、やはり全体的なバランスにあります。結いあげた時に、髷(まげ)の位置が極端に高すぎたり低すぎたり、鬢(びん)の部分がツンと張っているなど、遠くから見た際の印象が重要です。顔の大きさや形に合わせた全体の調和も必要で、そのバランス感覚は日本髪を練習する中で自然と養われるものです。
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