「カリスマではなく、ヒーローになる」斉藤恵一が語る真の信頼関係
お客さまが施術の先に求めるものとは何か
-お客さまの心を読むために、 美容師さんが明日からできることとは何でしょうか?
とにかく、自分が語るのではなくお客さまのお話を聞くこと。“傾聴”という言葉があるように、とにかく相手に関心を示して、心の声に耳を傾けることです。その上で知っておくといいのが、人間は常に「安定」「不安定」「愛」「成長」「自己重要化」「貢献」という6つの欲求を持って生きているということです。これを心理学用語で「シックスヒューマンニーズ」と呼ぶのですが、これらのなかのどれをお客さまが求めているのかを考えるのです。
例えば、お客さまはただカットしに来店するのではなく、カットすることで6つのうちのどれかを得たいと思っているんです。カットすることで新しい自分になりたいのか、誰かに愛されたいと思っているのか、就活中で自分が特別に見られるよう表現したいのか、それぞれ理由があるんです。そこをヒアリングし、ニーズを把握した上で提案をすると、「私のことよくわかっていますね」と信頼関係を築くことができると思います。
-「自分を変えたい」と願いながらも、安定を求めて元の自分に戻ってしまう美容師がきちんと変わるには、どう心を切り替えたらいいのでしょうか。
やっぱり自分を変えるのは不安だし、怖いんですよね。例えばお化け屋敷って怖いから「不安定」だけど、興味があるじゃないですか。そこで「入ってみよう」という人と、「やっぱり辞めた」という人の2つに分かれると思うのですが、売れる美容師は前者なんです。一歩踏み出せない人たちっていうのは、「頑張りたい」「変わりたい」と不安定を求めつつも、「でも怖い」っていう葛藤に負けちゃうんですよ。これは変わりたいと思っていながらブレーキを踏んでいる状態。やってみる人は「もっとやれるんじゃないかな」と自分に期待できるので、そこでブレーキを外して、一歩前に出られるんです。踏み出してみると、心配していたことが意外とたいしたことなかったなと思えるし、その経験が次の挑戦に進む後押しになるんです。
美容師ってすごく熱心に勉強するじゃないですか。でも、一歩踏み出さないのは勉強していないのと一緒で、変われないんですよ。変わりたいと思って学んでいるのに、行動しなければ意味がないと思うんです。勇気と覚悟と信念を持って、えいやっと飛び込む。踏み出せない美容師にはこの葛藤との戦いにぜひ勝ってほしいですね。
感度を磨き、常にお客さまの先を走る
-慣れや飽きからくるお客さまのサロン離れを防ぐために、信頼関係の築けたお客さまとの付き合いで、さらに努力するへきこととは何ですか?
見た目や価値観、トレンド情報やファッッション感度において常にお客さまの先を走ることですね。やっぱりダサい人に美を語ってほしくないじゃないですか(笑)。例えば5000円を使うとして、その使い方にこそ、その人の価値観って表れるんですよ。5000円で晩ご飯を食べるとして、焼肉や居酒屋を選ぶのは普通。でも、5000円でトンカツやラーメンを食べるのは、斬新なんですよ。普段5000円も払わない食べ物に使うことは贅沢なことだし、それを食べることがニュースにもなる。お客さまに対する影響力はそうした日々の選択で磨かれると思います。美容師が忙しくて大変なことは承知の上ですが、もっと遊ばないといけないし、もっとテレビを見なきゃいけないし、もっとお金の使い方を考えていかないともったいない気がしますね。
困っている人に全力を尽くす「ヒーロー」になる
-斉藤さまにとって「真の接客」とは何でしょうか?
やはり相手の欲求に答えることだと思いますね。相手を知り、相手の欲求を満たすために、自分ができることに全力を尽くす。カリスマになる必要はなくて、お客さまにとってのヒーローになるんです。ヒーローって完璧なわけじゃないじゃないけど、いざ目の前で困っている人がいたときに、全力で自分のできることをする。これが僕の究極の接客だと思います。
- プロフィール
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OFFICE nO DoubT代表/セルフマネジメントプロデューサー
斉藤 恵一(さいとう けいいち)
フリーランスとして、美容業界を中心に、アパレル業界、タレント業界などで、メンタリングやコミュニケーションスキルなどパーソナルマネジメントのプロデュース、新規事業のプロデュース及びコンサルティング、人材育成のサポート、イベント製作、セールスプロモーション、講演活動、コラムなどの執筆活動など多忙を極める。
(取材/文 阿部夕華)