美容師のヘアカタ写真はリアリティーに欠ける。BLANCOトヲルさんの違和感だらけな写真がお客さまに選ばれる理由
「BLANCO」を知ってもらうために。発信は白いキャンバスに塗る“色”の一つ
作品写真の発信は集客につながったというより、「BLANCO」を知ってもらう機会になっている気がします。だから、目的も「BLANCO」とうい美容室を知ってもらうこと。僕が担当してないお客さまにうちを知ったきっかけを聞いてもらうと、僕のインスタグラムを見てここ知った、と言う方が多いんです。僕からしたら「俺を指名しないんかい」って思うんですけどね(笑)。
また、発信は採用活動の面でも役割を果たしています。高校生や専門学生に知ってもらうことで、うちのリクルーティングが強くなっているんです。
ただ、うちは「全員がこれをやっていきましょう」というムードではないし、全社的に「変わったおもしろいことをやっているという美容室」という位置付けにしたいわけではありません。
「BLANCO」はスペイン語で「白」を表します。うちのコンセプトは、白いキャンバスにいろいろな個性の色を塗る、というもの。スタッフが自分の得意分野を伸ばし、各スタッフのさまざまな色が乗り、BLANCOになります。だから、僕の発信も “その色”の一つなんです。
僕個人としての発信の目的は、新しいことをして「後世に名を残す」こと。撮影をはじめたときにもこの目的がありました。今の美容業界は、美容の幅が広くなり、カットだけが美容ではないことを感じています。新しい可能性を模索し続けることで、新しい美容室の形を作っていき、後世に名を残せたらいいなと思ってやっています。
僕はアーティスト気質ではない、お笑い芸人タイプ。今は走り続けて新しい可能性を見つけたい
以前、ダウンタウンの松本人志さんが、「お笑い担当のボケの人は、ボケではない。こうしたら笑ってもらえる、というのをわかっている。本当にボケている人は、出川哲郎や狩野英孝のようなアーティストみたいな人。何もやってないのに笑ってもらえる」と言っていました。
僕はアーティストに憧れてはいるのですが、真面目な性格で、周囲を見渡す感覚を持っていると思っているので、前者のタイプ。「こういうことしたらバズるんじゃないか」とか、「こういうことしたらダメ」とか、ある程度わかっています。なので、美容師としてのあり方はしっかりしていきたいという意識があるんです。人とは違うことをやっていて、お客さまに挨拶などができない美容師だったら、ただの変な人になってしまいます。
正直、力を注いだ割には上手くいかないこともあって、遠回りしているなと感じたりもします。撮影をしたからお金になっているわけでもないですし。手応えは着々と感じているのですが、50歳になっても36歳の今の自分のように動けるか、と言ったら体力的にできないかもしれない。また、今は「新しいことをはじめよう」と思う一方で、身動きが取れない感覚もあるんです。新しいことをはじめると、新しいファンは増えるかもしれないけど、今のファンは離れるかもしれません。
でも、 “違和感”や “刺激“という軸が変わらなければ、表現の方法は変わってもいいと思っているんですよね。
仕掛けるのが上手い人って、消費されたらすぐやめて新しいものを見つけたりするじゃないですか。そういうタイプもいいとは思うんです。もちろん一つの味をずっと守り続けているような老舗ラーメン屋のようなタイプも好きです。影響力を与えられる立場にいるのも、今の時期だけなのかもしれません。だから、今は動けるうちに動き、あえて若手に席を譲ったりせず、このまま走り続けるつもりです。
- プロフィール
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BLANCO
スタイリスト/トヲル
1982年生まれ。ベルフォートアカデミーオブビューティ卒業後、株式会社サムソンに入社し、岐阜県の「BLANCO」に勤務。2013年に名古屋の店舗「SUPRAM」へ異動し、現在は名古屋の「BLANCO」に所属している。インスタグラムに投稿されるクリエイティブな作品が話題。
Instagram @toworu55
(取材・文/QJナビDAILY編集部 撮影/しょーゆ)