寺村塾#2 カラーやパーマの仕組みをきちんと理解して施術していますか? -「美容化学者」かずのすけさん-(前編)
トリートメントが改善しているのは髪の「手触り」だけ
寺村:髪の世界もまだまだわからないことばかりです。僕は日本毛髪ケラチン協会の新井幸三さんのゼミナールに入会したんですが、本当に知らないことだらけで驚きました。
かずのすけ:ケラチンの研究ですか。人間の髪の主成分ですね。
寺村:これまでケラチンについての研究があまり進んでこなかったのは、「よくわからないほうが、ヘアケア業界は儲かる」からだと思うんですよね。だからあえてグレーのままにしていた。
かずのすけ:実質的に髪を補修しようと思ったらケラチンしかないと思っています。ただ、ケラチンは簡単に言うと固まるものなので、入れすぎるとゴワゴワする。質感がよくないから美容室のトリートメントにはあまり採用されないのだと思います。
寺村:そうですね。お客さまは手触りで決めちゃう。美容師もそうかもしれない。
かずのすけ:今のトリートメントだとシリコンなどの皮膜剤でコーティングするのが主流ですよね。手触りはよくなるかもしれないけれど、根本的な解決にはなっていないと思います。個人的には、髪は傷めないのが一番。ホームケアとか、パーマやカラーをするときに髪を傷めないように配慮してやるとか、そっちのほうが大切だと思いますね。
寺村:痛ませた髪をどうにかするよりも、痛まないようにしていくことが大事ですね。数年間の積み重ねが、今の髪なのだから。
かずのすけ:スキンケアも同じで、これまでの蓄積なんです。だから、同じスキンケアをしてもうまくいく人と、うまくいかない人が出てくる。たとえば、湯シャンって一時期流行りましたよね。あれってそれまでシャンプーでガシガシ洗っていた人がまねしてもうまくいかないんです。
寺村:頭皮の環境に合わない人がいるってことですか?
かずのすけ:湯シャンの支持につながっていた理屈って「髪は洗浄するほど皮脂量が増える」っていう話だったと思います。実はこれについては確実なエビデンスがまだないのですが、例えば「皮脂は刺激に反応して分泌される」ということが最近分かってきています。炎症があったりニキビがあるときの肌って、普段よりオイリーですよね。だから、シャンプーで洗いすぎると刺激になって皮脂が増えることはありえると僕は考えています。でも問題なのが、今まで洗浄力の高いシャンプーでガンガン洗っていた人がいきなり湯シャンに切り替えると、今まで洗えていたはずの皮脂や汚れが残りすぎて頭皮がかゆくなってしまうんです。
寺村:シャンプーに慣れているから皮脂が出てくるんだけれど、湯シャンで皮脂を落としきれないからそうなっちゃうってことですね。つまりリハビリ期間が必要。
かずのすけ:いきなり湯シャンにするんじゃなくて、少しずつやさしいものに変えていくのがいいですね。田舎暮らしの人がいきなり都会に出てくると刺激が強すぎて疲れちゃうのと似たような感じです。
編集部:なるほどー。もし今のお話を美容師さんから聞いたら信頼度アップです。
かずのすけ:僕は髪を切りに行ってこんな話をされたらちょっとうんざりするな(笑)。個人的に、美容師さんとはもっとファッションの話とか、ライトな話題をしたいですけれどね。
- プロフィール
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かずのすけさん/美容化学者
京都教育大学教育学部卒、横浜国立大学大学院卒(教育学学士・環境学修士)
専門分野は有機生物化学、洗浄化学、界面活性剤など。大学ではタンパク質(ケラチン)と界面活性剤の相互影響について研究。大学院では界面活性剤を中心にした化学物質の生態リスク評価、及び化粧品や美容リスクに関わる消費者認知の研究に取り組む。現在はホームページ運営、執筆活動、セミナー講師等を行いつつ、コンサルタントとして企業の商品開発を支援。プロデュース化粧品・著書・掲載誌多数。
https://ameblo.jp/rik01194/
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寺村優太さん/Lily美容師
群馬県出身。山野美容専門学校卒業。都内有名店を経てフリーランスとして活動後、Lilyの立ち上げに参加。髪に悩む人を救済したい一心で365日ヘアケア情報を発信。主な著書に自身の経験や知識の集大成といえる美髪本『前からも後ろからもキレイがあふれる 美髪のルール』(Discover21)がある。
ブログ
https://beauty-architect.com/lily/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/teramura/
(取材・文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)