ろう者のお客さまとの手話の投稿に8.4万♡ 聴覚障害者が通いやすい美容室を目指すANHUTTE加納さんの挑戦
カウンセリングにアフターケア、美容室特有の言葉を手話で表現する難しさ
講座で手話を学んだものの、美容室で使う言葉をスムーズに手話にできたかというとそうではありませんでした。「おはよう」「ありがとう」などといった日常会話ならできるのですが、仕事で使う手話はまた別なんですよね。
聴覚障害者のお客さまを迎えてカウンセリングで初めて、「わからない、どうしよう!」と冷や汗をかきました。
そこは今でも悩ましいところで、美容室で使う言葉ってニュアンスで伝えている部分がすごく大きいんですよね。「長い」「短い」「重い」「軽い」といった手話で表現できることは手話で表現して、細かいニュアンスは筆談や画像でやりとりすることもあります。あと、やっぱり「かわいい」「かっこいい」といった褒め言葉は、役立ちますね。案外大事なのが、表情です。手話は度合いを表すときに表情が果たす役割が大きくて、そこは意識しています。
お家に帰ったあとのヘアケアについては、InstagramのDMでやりとりすることもあります。予約サイトだとそういったやりとりはできなかったですが、SNSは便利ですね。今まで美容室でヘアケアについて教えてもらったことがないという場合も多いので、やり甲斐を感じます。
色の手話も。写真は桃の形でピンクの意味。
カウンセリング以外の日常会話や他愛ないやりとりという面では、手話が果たしてくれる役割はやっぱりすごく大きいですね。Instagramで動画を発信したように、「耳が聞こえない、話せないから、自分は今まで美容室がつまらなかった。周りの人が美容師さんと楽しくおしゃべりをしているのが羨ましかった」という聴覚障害者のお客さまの声に触れたときは、手話を勉強してよかった、と心から思いました。
ただ、美容師は手にハサミを持って仕事をするので、カット中は手話はできないし、手話をしているとカットがなかなか進められないという悩みもあって。たしかに、一般のお客さまより施術時間はかかるんです。一人のお客さまにかける時間を短くして生産性を上げたほうがいいという意見もあるかもしれませんが、美容師との他愛ないやりとりを楽しみに来てくれるお客さまを大事にしたいですよね。他のスタッフもそこを理解してくれていて、ちょっとですが手話を覚えて話に来てくれたりもします。なぜか「マグロ」だけ覚えて披露しにくるスタッフもいるんですよ(笑)。
他愛ない会話といえば、聴覚障害者のお客さまのカルテを見ていて、前回の来店時の会話を思い出せないことがあったんです。なぜだろうと考えて気づいたのですが、美容師はお客さまの特徴を声や話し方といった耳からの情報で記憶していることが多いんですよ。それが、聴覚障害者の方の接客となると、手話を“見て”記憶していて、前回のことを思い出すのも目からの情報からになるんです。その作業があまり慣れないので、すんなりと思い出せるようになるのが課題だと思っています。
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