あのカリスマも失敗してきた!? 有名美容師に聞く、「美容師人生史上、“最恐”エピソードとその教訓」後編――SHACHU みやちさん・NORA広江さん
大口を叩いたのに落ち続けたシャンプー試験…数々の失敗を笑い話にして乗り越えた! ――NORA 広江一也さん
最初は、美容師を舐めていた…「当然受かる」と思っていたシャンプー試験に失敗
最初に入社したサロンはカリスマ集団の超有名店で、3カ月でシャンプー試験に受からない人は、戦力外としてクビになる環境でした。入社当初に「3カ月で受かることができるのか」と聞かれた僕は、「いや、当たり前でしょう、受かります」と大口を叩いていたんです。ところが、そのシャンプー試験に全然受かりませんでした。
3カ月目で不合格だったときは、とにかく恥ずかしかった。土下座して謝り、なんとか首の皮一枚つながっている状態でした。クビにならなかったのは、多分、飲み会番長的なムードメーカーで、先輩に「面白いな」とかわいがってもらえていたからだと思います。
この頃は美容師を舐めていたんですよね。僕はもともとゼネコンで働いていたのですが、ゼネコンって結構ゴリゴリの体育会系で理不尽なことも多い業界だったので、そんなところでやってきた自分なら美容業界なんてチョロいだろうと思っていたんです。社会人経験もあるし、18歳くらいの若い子たちの中で負けるはずがないって。でも、美容師は技術職。ガムシャラにやればなんとかなると思っていたけど、そうじゃなかった。センスとか言われても今までやってきたことがなかったので、まったくできなかったんです。
さすがに「このままではまずい、何か自分のやり方は変えないといけない部分がある」と思いました。そして変えたのが、教わる姿勢と教わる人です。最初は、当時シャンプーがうまいといわれていた先輩1人にしか教えてもらっていませんでした。1番うまい人に教えてもらったほうが速く成長すると考えていたんです。だけど、試験で最終チェックをするのはその先輩とは限りません。人によって好みがあり、髪の長さや頭の形が違います。正直、そこに対応できてなかったんですよね。
そこからはいろんな人に頭を貸してもらって、洗わせてもらいました。そして、いろんな人の意見を聞くようにしたんです。そうして他の先輩にも教わるようになってから1カ月くらいで試験に合格しました。
いろんな意見を聞いて回り、視野を広く持つように
以降、どの練習にもより一層真面目に取り組むようになり、練習そのものも、より効率よくやるようになりました。当時の美容業界は徒弟制度の文化が強く、「黙って先輩を後ろで見てろ」「先輩が帰るまで帰るな」といったわけのわからないルールがたくさんありました。でも、後ろで見ているだけなら自分の練習をしたほうがいいですよね。そういう理不尽な無駄がすごく嫌だったので、自分たちのできる範囲で練習がスムーズにできるようにと考え、実行していました。
無駄をなくすといっても、シャンプー試験に落ちていたときは自分の勝手な思い込みで判断していたので、まずは複数の意見を聞いて情報を集めて考えるようにしていました。特に話を聞いていたのは、他のサロンの人や他業種の人です。当時は、サロンに他業種の同世代の人がくると、10人や20人を集めて、よく交流会という名の飲み会を開いていました。
先輩に言われたことは「それって本当にそうしないといけないのだろうか?」と疑問を持つようにして、飲み会とかで「こんなことがあったんですけど、どう思います?」って。そしたら、「それは美容師業界特有の文化だよ」とか、「一般的に考えてもそんなにおかしくないんじゃないかな」とか言ってもらえるわけです。多くの人と話す中で、「世間の真ん中はこの辺りで、これは美容業界特有だ」とか「ここは世間の真ん中よりも美容業界のほうがいい」とか、そういう判断の軸となる「真ん中」を作り、それをもとに考えて行動したんです。
その結果、シャンプー試験合格は同期の中で最後だった僕が、4月の新卒入社組の中で1番にスタイリストデビューしました。それまで、飛び抜けて頭がいいわけでも運動ができるわけでもなかったので、このとき生まれてはじめて成功体験ができたような気がしたんですよね。それまでの根拠なき自信と違って、しっかりと重みのある自信につながり、成功体験を持つことって大事だなと改めて思いました。