【美容師のハサミ】DaB八木岡聡:1970年代〜美容人生を支えたこだわりの道具、美容業界を超えた圧巻のデザイナー実績を明かす
渡仏の飛行機であわや紛失!?悲しい出来事
八木岡:こちらをご覧ください。過去からずっと揃えているオリジナルのシザーです。初期はミニシザーから始まっています。僕は、美容師をスタートしたのは1976年。その当時は美容学校でもレザーが主体だったわけですよ。ハサミもたいしてキレないようなもので。僕が1979年にヴィダルサスーンに留学して、その当時はミニシザーを使っていて、やがて自分のオリジナルのハサミも作るようになったんです。
本来ならこのラインナップの中に、20〜30丁のミニシザーがあるはずでした。でも20代でパリに毎年行っていた頃に盗まれたんです。僕のミニシザーの歴史はそこで全てなくなりました。自分が今まで大事にしていた道具が全てなくなるということは、すごく寂しいことだよね。
ちょうど20年前に、関西にある光邦さんと一緒に開発したのがXシリーズ。今でも売られているものです。昔のメガネ型に粘土で指の形を作って、それをどんどん進化させてXシリーズの形になりました。スムーズな動きや、操作性をアップするため、また手に負担をかけないハサミにするため、接触面を増やしたんですね。
今までのメガネ型だと真っ直ぐに持って押すように切る。Xシリーズではスムーズな開閉だけでそのまま切れる。柔らかい手の動きの中で動かせるよう、刃の切れ味と、ネジ部の工夫と、僕自身が考えた接触面でハンドルをデザインして、このコラボでXシリーズのクオリティが完成しました。
今、僕がサロンワークで使っているのがこちらです。手の丸みに合わせたスムーズな開閉を可能にし、さらに指かけも最小限にしています。指かけが長いとお客さまの頭に当たったり、自分自身の操作性が鈍るんです。Xシリーズはどんどん進化しています。
僕が40歳くらいの頃、腱鞘炎に似た症状が出ました。夜も湿布をして寝なければ、次の日が持たない。そんな時期もありました。今は切り方も変えて、前のスピードの半分くらいにしています。例えばシザーリングも、1パネルを取った後の開閉を少なくしたり。僕の後輩たちには、なるべく僕の切り方を真似して欲しくない。キャリアをうんと積んで、終盤では僕を参考にすることはいいかもしれないけど。昔はカッコよく切れるパフォーマンス性みたいな部分も大事にしていたのが、今は「ただ切ればいい」、そんな感じにはなってきましたね。
その結果、何ができてきたかというと「ハサミ筋」です。人間の限界まで動かすとこんなことになるんですね。
トカジ:うわーーー! ハサミ筋ですか!?