関西の頼れるカメラマン・井関雅也さんが見た「作撮り美容師の伸びる瞬間」
しんどいことを超えないと感じられない空気がある
—現場にくる美容師さんを見ていて、成長したなと感じるのはどんなときですか?
まず佇まいが変わるよね。いつもと同じようにスタジオにきて仕込んでいるんだけど、後ろ姿から自信があるような、何か分かったんだろうなという気配を感じたときですね。あいつ、えらく格好よくなったなって思うんですよ。あとみんななぜか姿勢がよくなる(笑)。
—作品の以前につくっている本人が変化するんですね。何がきっかけかわかりますか?
本人には聞かないけれどオーナーさんや先輩に聞くと、売上げが上がったとか、知り合いが増えたとか、具体的に何か自信がつく要因があるようです。クリエイションに関係ある場合もあればないこともあるし、仕事と関係ないプライベートが要因になっていることもあるんじゃないかな。やっぱり作品づくりは表現だから、本人の内面と深く繋がっていますよね。
—変化を感じたときは、撮るときの期待感も高まりますよね!
もちろん技術的に全然ついてこられていない場合も多いけど、それでも、今までと違う発想のものを出してきたなと感じるときは、それをさらに高められるような光をつくったり、こちらも気合が入りますね。なんかね、成長したでしょっていうのを実感させてあげたいんです。
—今までで印象に残っている「美容師さんの伸びた瞬間」ってどなたのどの瞬間ですか?
merciの杉川(友洋)くんの2012年にJHAのエリア賞を受賞した作品の撮影のときかな。杉川くんはアシスタント1年目の頃から撮っているんだけれど、当時からずっと「うまくなりたいんですよね」って言っているような子で。でもコンテストで賞を獲ったりはしていたけれどなかなかパッとはしなくて、自分で店をやり出してからクリエイションに関しても花開いたという印象ですね。
で、その撮影のときは、感覚的にしか言えないんだけれど……撮るときに「今までと違うのがきた!」と感じたのを覚えています。
—作風が変わった?
そういうんじゃないんだけど……、うまく言葉にはできないですね(笑)。でも直感的に「違う」と感じたし、本人も感じていたんじゃないですかね。
ちなみに杉川くんはもう一回印象に残っている現場があって、それもJHAで2015年にライジングスター優秀賞になった作品なんですが、もともと、あの作品で狙っていたのは違う角度の、違うヘアデザインだったんですよ。でも当日、モデルの体調が悪かったり、しっくりいく絵が撮れなかったりで現場が難航していた中、杉川くんが突然違う方向からヘアを探りだしてパンって生まれた作品なの。だからシャッター切ったのもたったの3、4回。その中の1枚なんですよ。
—奇跡の1枚……!?
そんな感じですよね。でも忘れられないのは仕上がった作品以上に、そのときの現場の空気感のほう。その瞬間、杉川くんも僕も、モデルもメイクもアシスタントの子たちも、全員のリズムが一個になったあの空気です。
みんなの力で何かを超えたと感じた瞬間だった。あの空気は忘れられないし、あの撮影の後ますますしんどいことをやらなあかん、それを超えないと見えてこないものがあるって思うようになりました。自分としてももう一度あの空気を感じたいし、あれを超えたい。そしてあの感覚を他の子たちにも味わせてあげたい。今、若い美容師さんたちと撮影をしていて思うことはそれですね。