街の美容室vol.15 自由が丘 AUQWA
−「人間的な魅力づくり」は、なかなかマニュアルにはなりにくいですね。
そうですね。魅力を引き出すのに明確な答えがあるなら教えてほしいくらいです（笑）。でも人間的な魅力とは、一見あたりまえのように思える、普通のことかもしれないと思うんです。たとえば、上司でも部下でも立場は関係なく、誰にでも「ありがとう」と感謝の気持ちを素直に伝えられること。どんなときでも感謝の気持ちを素直にもてる人は、表情や言葉づかい、お客さまへの触れ方、率先してお客さまをお見送りに行くことなど…ちょっとした行動に、その気持ちが自然に現れます。
人間的な魅力も、会社の魅力も、人と人とのつながりを大切にするところから生まれるものだと思います。仕事も、人とのつながりから広げていきたいと思っています。たとえばお店の内装は、自由が丘にあるアパレル兼家具屋さんの方に出会ったのをきっかけに、つくっていただきました。使っている家具にも値段のタグをつけて、気に入ったお客さまがいらっしゃれば、お店をご紹介できるようにしています。植物の販売もしていますが、これも祐天寺にあるお花屋さんをしている知人とのコラボレーションです。コーヒーの販売もしていますが、これは元上司の知り合いで、長野のコーヒー屋さんから取り寄せています。
−人と人とのつながりをきっかけに、ライフスタイルの提案もされているんですね。
この場所は、さまざまな文化が融合する「コミュニティ&スペース」でありたいと思っています。家具やコーヒー、植物などライフスタイルの提案の中に、髪の毛を切るスペースがあるというイメージです。お客さまと文化をつなぐ「ハブ」の役割ができればと考えています。
２時間もお客さまにつきっきりで接する職業は、美容師以外にはあまりないと思うんです。そうした意味で、美容師は、さまざまなライフスタイルを提案していける可能性を秘めている、すごい職業だと思います。それこそ、少し大げさかもしれませんが、家も売れるかもしれないくらい（笑）。そうしていろいろなものをお客さまや地域にも紹介していけるのは、とても楽しいですね。
この場所は、カフェとして利用していただくこともできます。お子さんの保育園のお迎え前にご来店いただく方も多く、施術後、お迎えまで時間が中途半端に空いてしまったときなど、ここでコーヒーを飲んで時間をつぶしていただいています。コーヒーは有料になりますが、このあたりのカフェに負けないおいしいコーヒーです。
−スタッフ教育では、どのようなところに重点を置いていらっしゃいますか？
まず、「美容師とはどのような職業なのか」の原点に立ってほしいと思っています。美容師とは、お客さまが欠点と感じている部分をカバーし、なりたい自分になるのを叶える「コンプレックス産業」です。いかにお客さまの感じているコンプレックスを理解し、望む形に近づけるかが大事です。そのためにはカットの技術ばかりではなく、カウンセリング能力、コミュニケーション能力が重要です。お客さまとしっかり話し合い、納得していただいたうえで技術を提供していかなければなりません。
たとえばお寿司屋さんに入って、「光り物うまいからどうぞ」と言われて無理やり提供されても、光り物が嫌いな人なら、どんなにいいネタが上手に握られていてもその店には二度と行かないですよね。腕がいくらよくても、コミュニケーション能力がなければお客さまの満足は得られず、商売は成り立たないんです。
土地柄、お客さまの年齢層が高いことも関係しているかもしれませんが、今、30歳すぎのスタイリストの指名が増えています。その理由は技術だけではなく、コミュニケーション能力を買われてのことだと思います。
−今後、どんな新しい展開を考えていらっしゃいますか？
人を育てることは難しいけれど、それもひっくるめて仕事です。時代の変化とともに若い人たちの考え方も変わっていますし、そこをしっかり理解してコミュニケーションをとり、共存していきたいと思います。
今後は、若い人たちのための、コミュニケーション能力を高める教育を充実させていく予定です。将来的には、それをメソッドとして構築していけたらいいですね。常に新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。
- プロフィール
-
AUQWA オーナー・ヘアデザイナー
東方洋敦（とうほう ひろあつ）
東京都出身。窪田理容美容専門学校卒業。渋谷の美容室に勤務後、自由が丘の美容室に転職。2005年26歳で店長に就任。2009年30歳でAUQWAをオープン。美容師歴19年。丁寧なカウンセリングをモットーに、髪の健康とトレンドを意識したナチュラルスタイルを得意とする。
（取材・文／揚石 圭子 撮影／泉山 美代子）
