撮影で出会ってから13年間一途に通い続けています ―写真家と美容師の関係―
テレビ朝日『世界の街道をゆく』の風景写真やLEXUSなどの企業広告写真、雑誌『BRUTUS』『TRANSIT』などで活躍している写真家・谷口京(たにぐちけい)さん。新美容出版の撮影をきっかけにBRIDGEを経て独立したSENTACオーナーのセキタカシさんと知り合い、以降13年間も親交が続いているそうです。今回は髪を切るだけでなく、プライベートでも仲のよい二人の関係性にフォーカスします。
「それでも世界は美しい」 欝々とした心が動いた瞬間
911のテロが起こったその日、僕はニューヨーク・コレクションの3日目に開催されるMARC JACOBSのショーの撮影のため、マンハッタンにいました。初秋の抜けるような美しい空のもと、ツインタワーに航空機が突っ込み、ビルから黒い煙がたなびいている…現実を超越する光景に、言葉も出ませんでした。
ニューヨーク・コレクションの会場にいたAPやロイターのカメラマンは、すぐに現場に向かっていきました。それがジャーナリストの使命だと感じたのでしょう。一方の僕は、カメラを持っているのに何もできない、ただの傍観者だったのです。
以降、自分でも何を撮ったらいいのか分からなくなり、テロの影響で仕事が激減したこともあって、日本に一時帰国しました。半年以上、欝々とした気分が続き、写真を撮る気が起きません。でも時間はあったので、アジアに出かけることにしたのです。写真を撮ることが目的ではなかったのですが、カメラを1台だけぶら下げていました。
転機になったのはラオスでの出来事です。ラオスでは外国人が珍しいから子どもが駆け寄ってきます。畑仕事をしているおばあちゃんが、わざわざ手を止めて「こんにちは」と挨拶してくれることもありました。子どもたちの笑顔や、美しい田園風景を見て、「それでも世界は美しい」と思えるようになったし、心が動いたときにシャッターを自然と切ることができるようになったんです。
その後、アジア、アフリカ、中南米、60カ国を巡って2004年に帰国しました。撮りためた写真をトラベルカルチャー雑誌『TRANSIT』に持ち込み、作品を発表する機会をいただいて、そこから仕事が広がっていったのです。
美容雑誌の撮影をきっかけにセキさんと意気投合
『TRANSIT』を見た新美容出版の編集さんから連絡をいただき、都内の人気美容師さんと東京のあちこちで作品撮りをする仕事をさせていただいたことがあります。SENTACのセキさんと出会ったのはそのときのこと。当時のセキさんはARTIS SALON(現BRIDGE)に所属していました。
これは今もそうですが、原宿・表参道で活躍している売れっ子なのに、セキさんは気取ったところがまったくありません。一度、カットをお願いしたら、技術はもちろん、距離感も絶妙で、とても居心地もよかったんです。昔はいろいろな美容室に行っていたし、自分で髪を切ることも結構あったんですが、セキさんと出会ってからは別の美容師さんに切ってもらったことはないですね。
一緒にお酒を飲むこともあるのですが、お互い自営業なので、自営業ならではの悩みや喜びを話して、共感しあっています。僕もセキさんも子どもがいるので、「子連れで行くなら長野の○○というホテルがオススメですよ」「吉祥寺に子連れに優しいレストランがあって…」という具合に情報交換するのも楽しい。二人とも同じようなライフステージにいるので、話題に事欠かないですね。
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