「美容師YouTuber SHOHEIさん」&「美容室Lily」のメディア戦略!?

SNSフォロワーを増やすより、「信用貯金」をいかにつくるかが重要!

 

 

−続いて寺村さんに、Lilyのメディア戦略についておうかがいしたいと思います。Lilyに所属している美容師さんは発信力が強い方が多いですが、採用される際にそうした面も条件にしているのでしょうか

 

うちのスタッフは、ぼくと代表の柳本がいいな、と思った人に声をかけて参加してもらっています。実は発信力があるかどうかは重視していません。

 

SNSのフォロワーが多いのと、美容師として腕が立つかどうかは、まったく関係ないと思っています。SNSのフォロワーが少なくても、お客さまをたくさん抱えている美容師さんはいます。

 

ぼくらが重視しているのは「信用貯金」です。「信用貯金」とは、人からいかに信用されているかで、美容師なら、たとえばお客さまのリピート率が高いとか、お客さまから長文でお礼がくるとか、その人がおすすめしたものはよく売れる、などの形で現れます。SHOHEIさんの場合なら、とくにウェブ上での信頼度が高く、この間もYouTubeでミニアイロンをおすすめしたら100台くらい売れていました。

 

−今の時代、SNSのフォロワーが多いからといって拡散力があるとは見なされないのですね。

 

 

そうです。今はフォロワー数ではなく、どんな人がフォローしているのか、その内容のほうが重視されています。一時期、「フォロワー」を購入できましたが、それが禁止されてから「フォロワー」が激減した美容師さんもいます。

 

フォロワーが少なくても、その中に、たとえばホリエモンさんとかゆうこすさんとか、社会的影響力が大きな人がいれば、それだけ価値があるとみなされます。今は広告代理店などでは、誰にフォローされているかまで追いかけて、インフルエンサーとなる人を査定しているそうです。

 

最近では「タイムバンク」という、ウェブ上で個人の時間を株式のように売買できるアプリがあって、そこでは人の価値(社会的影響力)が金額(仮想通貨)で表されています。その人の時間を買いたい人が多ければ価値は上がり、買いたい人が少なければ価値は下がります。市場価格は、株と同じように常に変動するという仕組みです。つまりいまやウェブ上での発信力ではなく、リアルな現実の中で、何かしらを発信していけるスキルが重要になっているんです。

 

−どんどん進化しているのですね。

 

 

だからLilyでも今、メディア戦略よりも現実世界での「信用貯金」を重視していますが、スタッフはみんな、こちらから何か言わずとも、自然とそれをやっている人たちばかりです。

 

たとえばSHOHEIさんは、自分が本心からおすすめできない商品の広告依頼がきたら、たとえどんなにギャランティーがよくても断ります。YouTubeの視聴者は、彼は本当にいいと思ったものしか勧めないのを知っているから、彼が「いい」と言ったものは売れるんです。お金よりも信用のほうが大切という良識を、23歳という若さでもっているのはすごいことだと思います。

 

「本当にいいものを、必要とする人に届ける」ことを、いかに広告費をかけずにできるかの実験をしたこともあります。2万円もするFlowersというオリジナル・ヘアケア商品(シャンプー、トリートメント、オイルのセット)を、SNSの発信と施術にいらっしゃるお客さまへのお声掛けのみで、広告費を1円も使わずに売ってみたんです。結果、僕一人分の売り上げが1カ月で380万円にもなりました。決して安い買い物ではないので本当に、「みなさんよく買ってくれたな」と驚きましたが、これもそれまで積み立ててきた「信用貯金」のおかげだと思います。うちはこれからもメディアを使って派手な宣伝を打ち出すより、「信用される組織づくり」を大事に足元をしっかり固めていきたいと思っています。

 

−そうすることで、ずっと未来まで応援してくれるお客さまをつくっていく、ということですよね。

 

 

はい、そうです。もう一つ、「信用される組織づくり」のためには、社内で信頼関係を築くことが大切です。スタッフ同士で信頼しあっていなかったら、本物の信用は勝ち取れないと思います。

 

個人でやっていることがチーム(会社)として見たときにマイナスになるようなら、それは考え直さないとならないし、逆に、チームとしてやっていることが個人にとっていい結果にならないようなら、それもダメだと思います。個人とチームとがお互いに納得できるポイントは必ずあるはず。そのポイントを見つけるために話し合っていく過程で、スタッフ同士の信頼関係は築いていけると思います。

 

うちはスタッフから何か提案があれば、「それをどうしてやりたいと思ったのか」、ぼくや代表の柳本、またはスタッフみんながきちんと耳を傾け、それがどうしたらお客さまや会社にとっていい結果につながるのかを一緒に考えて、いいところに落ち着いていけるように話し合います。そこでスタッフの声を聞き漏らしてしまえば、その人はずっとフラストレーションを抱えて仕事をすることになり、個人にとっても、会社にとっても、お客さまにとってもいい結果を生み出しません。

 

話し合いを重ねていくことが、スタッフ同士の信頼関係の向上につながっていく。多くの問題は、コミュニケーションをしっかりとっていくことで解決していけると思います。コミュニケーションの障害となっているのは、上の人が社内の情報を独占しているところも大きいので、上下の立場に関係なく、情報を開示していけたらいいと思っています。そうすれば「なぜ給与アップがむずかしいのか」とか「休日がもっとほしい」といった問題も、内部的な経営事情を知ることで、納得できる場合もあるのではないでしょうか。

 

−スタッフが納得できる着地点を見つけるには、上の人がある程度の内部情報をわたして、一緒に考えたり、判断したりする状況をつくるのが大事ということですね。

 

うちも100パーセントできているわけではありませんが、上司が今、何を考えてやっているのかは、どんどん伝えていきたいと思っています。

 

そうして、わだかまりなく働くことのできる環境があれば、InstagramやTwitterなど、どんなメディアを使って発信したとしても、人の心をつかむようなハッピーな内容になるはずです。

 

結局、ぼくらはメディア戦略的なものは何もしていないんです。サロン外に対しても、サロン内に対しても、人のためになることを誠実にしっかりやっていれば、必ず見てくれている人がいて、自ずと結果はついてくるもの。そうして集まってくださったお客さま、そしてスタッフは、Lilyにとっての大切な財産になっていくと思っています。

 

プロフィール
フリーランス美容師(Lily所属)
SHOHEI(ショウヘイ)

東京都出身。早稲田美容専門学校卒業。原宿のメンズ専門美容室にてジュニア・スタイリストを経て、23歳でLilyにてスタイリストデビューを果たし、フリーランス活動を開始。美容師YouTuberとして登録者数20万人という実績をもち、2018年秋にはテレビCMデビュー。メンズカットやショートカットを得意とし、10〜20代の支持率が高い。

 

プロフィール
Lily美髪アドバイザー・スタイリスト
寺村優太(てらむら ゆうた)

群馬県出身。山野美容専門学校卒業。六本木の美容室に勤務後、半年間のフリーランス活動を経て、柳本剛、野坂信二とともに美容室「Lily」(表参道)を立ち上げる。「自分史上最高の美髪に」をキャッチコピーに、ヘアケア専門の美容師として活動。サロンワーク以外にもセミナー講師としても活躍中。

 

(取材・文/揚石圭子 撮影/菊池 麻美)

 

 

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