リピート率95%、予約は1年先まで埋まるサロン。奇跡を実現するichiオーナーが語る“業界思考にとらわれない”サロンブランディング論
お客さまの五感が触れるすべてのものにコンセプトを込める
-コンセプトを決めても、それをお客さまに伝えることは難しいように思います。どうやって伝わる形にしていったのですか。
サロンをつくるにあたって「五感に響く」もキーワードとしていました。五感というのは視覚、触角、聴覚、嗅覚、味覚。これらは無意識に入ってきて、その人にとって「ネガティブ、ポジティブ」の判断に作用します。ですのでお客さまの五感のどこに接しても「ichiらしい世界」を感じてもらえるよう、ペン1本、ショップカード1つにまでこだわりました。
なぜかというとデザインには必ず、背景や理由が存在するからです。それが五感を通じて感性に響くのです。だから空間をつくる素材やデザイン、そして置く物すべてをコンセプトに沿ったものにする必要があるのです。はじめに考えた空間づくりにおいては、材質から設備にいたるまで徹底的に選びました。椅子は業務用ではなくイタリアの老舗カッシーナ社製のものを、床は天然石に。本質を追求するサロンであることを、空間で体現していったのです。またいわゆる店販スペースの棚にはあえてヘア関連の商品を置かず、ライフスタイルグッズを並べました。これもこの空間にいるだけで、「ライフスタイル」がキーワードだと伝わることをねらったものです。
また施工にあたっては、あえてこれまで美容の仕事をしたことのない、僕と価値観を共有できるデザイナーやクリエイターにサポートをお願いしました。「美容室とはこうでなければいけない」という感覚とは違うところから、新たな価値を築いていきたかったからです。
2階にはサロン用に配色をオーダーしたカッシーナ社製のソファタイプのチェアを。空間をはじめチェアにいたるまで、統計学に基づいて心地よい環境のためのデザイン配置をしている。
-コンセプトに基づいたメニューづくり、体制づくりはどのように進めたのでしょうか?
ichiではアシスト(アシスタント)を半人前としてではなく、お客さまの健康美を保つ能力を持ったプロとして捉えています。髪が傷まない状態をつくり、ヘッドセラピーやスキンケア、アフターケアの提案を行うのが、彼らの仕事です。
そしてデザイナー(スタイリスト)はたくさんの引き出しの中から、お客さまのライフスタイルに合ったヘアデザインや来店ペース、必要な施術内容をプランニングしていきます。この2つが並行して機能することではじめて「ライフスタイルをデザインする」が実現できるということを、スタッフにもお客さまにも認識してもらうように務めています。
お客さまには「ライフスタイルをデザインする」というコンセプトを理解いただくことで、より生活に基づいたお話しをしていただけたり、髪、肌の変化に対する不満をお聞かせいただきやすくなったように感じています。またアシストはこの仕組みによって、デザイナーになる前から自分の役割を認識し、お客さまから信頼される実感を得られます。教育的にも良い循環となっているのです。