「デザインとは、自分と向き合うこと」HEAVENS小松敦さんが語る“ヘアデザインの本質”
家にこもっていたところでデザイン力はつかないよ
-デザイン力を高めるためにはどうしたらいいですか?
まずは、人に興味を持つこと。ヘアデザインは家にこもっていて、或る日突然、降ってくるものじゃない。常にど真ん中にいて、人を見て、街を見ていないと生まれてこないんです。すべてのことに興味を持つ、人に興味を持つ、いろいろな人の考え方に興味を持つ。それがすべてだと思いますよ。
よく若い子に、『美術館に行った方がいいですか?』って聞かれるんですが、興味を持っているなら行った方がいい。もし興味がないっていうなら、興味があるものを探すしかない。たとえば、スイーツしか興味がないのなら、なぜそのスイーツが好きなのかを考え、食レポばりに観察・表現・分析できるようになれば、サロンワークで役に立つかもしれないですよね。
夢中になっているとね、余計なことを考えないからいいんですよ。自分自身はただ夢中になっているだけで、大変だなんて考えていない。そうやって、没頭して打ち込む時期が必要です。
そして美容師だったら、願わくば、人を美しくすること、人が重要感を持てるようなデザインを作ることに夢中になれたらいい。そしたら、まあまあ感動的で、そこそこ面白く、生きていけるんじゃないかな、と。
-デザインって説明できるものですか?
説明できる人もいるし、説明できない人もいます。
ヘアデザインって、ハサミを動かして、道具を使って、鍛錬して、その上で形をつくる技術なんです。自分の体、手、目、脳でデザインしているから、どうしても自分の特徴が出るんですよね。それによって形づくられたものを見て、「なぜ自分はこういうものが好きなのか、なぜ自分がこういうものを作るタイプなのか」ということをきちんと紐解いていけば、自分らしいデザインという道が見えてくるはず。それを解説していけば、言葉で説明できるようになってくると思います。
-そういう意味でいうと、WEBやSNSで自分の作品を発表して、それに対してコメントを掲載することも、紐解いていくための訓練になりますか?
そういう面もありますね。私は常々、日本人だからこそ、表現できる言葉ってあると思っています。情緒、なんともいえない、儚い、わびさび…。ただ言葉を並べるのではなく、そういう日本語の美しい言葉でデザインを表現することも大切。
-著書でも日本人らしさの大切さを説いていましたが、小松さんが考える“日本人らしさ”とは?
僕が考える日本人ならではっていうのは、物事をていねいに捉えるということ。日本人っていうのは、理由づけを求めたがる、考える人種なんです。でも、考えることで、相手を思いやることができる。グレーゾーンって重要で、日本人の情緒的な考え方、捉え方はデザインに重視されるところだと思います。
ヘアデザインはものを扱うわけではなく、人を扱う。ですから、相手を想う気持ちっていうのがヘアデザインに現れます。美容師っていうのは、そういう意味で心がある仕事です。丁寧に考えていくことで、日本人だから出せる優しいヘアデザインが生まれるんじゃないかな、と思います。
- プロフィール
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HEAVENS
代表/小松 敦(こまつ あつし)
一般誌・業界誌・広告のヘアデザインや国内外でのヘアショー、セミナー、商品開発など、多岐にわたって活躍。日本全国で開催されるヘアデザインコンテストの審査員を数多く務め、2016年にはJHAの審査員に就任。独自の技術論に裏づけされたアグレッシブなデザインは圧巻。
(取材・文/池山 章子 撮影/東原 昇平)