DaB八木岡聡 創造者、降臨。【GENERATION】雑誌リクエストQJ1999年2月号より

独創。–Originality-

 

 

オリジナリティ、である。

八木岡聡は自分の存在を前面に押し出し、世の中に問い続ける。

その生き方は必然的にオリジナリティを求める。

 

「彫刻家とはフランスにいる間に知り合った。フォトグラファーもパリで知り合った。なんとなく引き合うものってあるんですよね。きっと発信してるものがあるから。生き方とか、チョイスの仕方とか。大事なことはオリジナリティ。自分にしかできないこと。自分しか考えないこと。選ばないこと。偏屈なという意味ではなくて、その真剣さ。それがにじみ出てくる。それは世界共通かな」

 

オリジナリティの定義は難しい。

特にこの情報化社会において、私たちはたとえどんなに斬新なアイデアを生み出したと自負しても、疑心暗鬼に陥る。世界のどこかで、すでに誰かがやっているのではないか、と。

だが、ホンモノのオリジナリティを発輝している人は、明快に語ることができる。

たとえば彼のように。

 

「珍しいものをオリジナリティというのと違うから。ひとつの哲学というか、自分の生き方みたいなものでしょ。だってオリジナリティにも趣味の悪いオリジナリティもあるわけで。センスの善し悪しみたいなものがあるわけ。だからその人自身の存在といってもいいかもね。オリジナリティという言葉を変えていけば。一個人ということでもいいかも知れないね。個人の存在そのものが、すでにオリジナリティである、と」

 

しかし、と私は問いかけた。

ヘアの世界はすでに、あらゆるスタイルが出尽くしているのではないか、と。

 

「あのねぇ」と、彼は再び一瞬にして熱くなった。

 

「勉強不足ですよ。全世界の人々がすべて顔立ちが違うくらいありますよ。あなたの言葉は、日本人の顔はだいたい一緒ですよねと言われたくらいの言葉ですよ。個の存在が無限である以上は、無限に出てくるんじゃないですか」

 

じゃあ、と私は油を注ぐ。

仕事はすべてのお客さんや、モデルに合ったオリジナリティの発揮なのか、と。

 

「雑誌に載ってた範囲のスタイルという定義で言うと、どこにもオリジナリティなんかないわけ。だけど、そのスタイルをぼく自身が選ぶことによってオリジナリティあるものになるわけですよ。同じボブを切っても、ぼく自身のオリジナリティになる場合もあるんですよ。そのためには、ぼく自身がオリジナリティある生き方をしてないと、それはただのボブといわれることもある。ボブにしよう。そう決断して、切る。お客さんが変わる。それは世界にただひとつの、僕とお客さんとの共同作業でしょ」

 

「ぼくはまずつくる側の姿勢として、オリジナリティあるものをつくりたいと思って創る。そういう人であるべきだという考えを持った人間が、そういう考えを持ったお客さんと出会って、創っていくということだ大切だ、と。DaBという場所はそういうシーンに対しての、環境を与える場所だと思ってるんですよ。そこに自分が選んだスタッフと、そのスタッフを選んだお客さんとで、ヘアにおいてのクリエイションをやってる。でもね、いつもどんな人にも見たこともない頭をやりなさい、なんてことは言ってない。お客さんはオリジナリティあるものに触れたいし、そういう人を選んで、その上で、もしかしたら普通のヘアをやって欲しいという場合もあるわけですよ」

 

そういった後で、彼は自分を振り返るように時間を置き、言葉をつないだ。

口調は穏やかに変わっていた。

 

「20代のころはいろんな人と出会ったり、いろんなことにトライしたり、無理したり、突っ張ったり、見栄はってやったり。いろんなことを経験して挑戦するのはいいけど、慣れてくるとなるべく素直に生きていく。見栄はっちゃった分、どっかで戻して、本当の自分というものと付き合っていかないと。ずっとフェイクでいくということは、決していいことじゃないと思う。ぼくの場合、考えてみると、つくるものは生活に密着したものが多いんですね。日々の生活の中からアイデアが出たり、もっとこうなったらステキだなとか、こうしたら可愛いなと思うものをつくっていくというのがいいのかも知れない。たとえばファッションショーとかは効果的に見せるように演出したり、あるいは増幅させたりという全然違う視点があるわけ。だけどサロンというのはあんまり増幅ばかりしてても困るし、すごくデフォルメしたり、フェイクなものでも困っちゃうじゃないですか。人には必ず普段の自分があるし、寝癖のついてる時も、濡れてる時もそれなりに可愛かったり、一生懸命セットしてまた可愛くなったり。いろんなシーンがある。サロンワークはその一環だから。そういう意味で今、改めて考えてみると、やっぱりそういうのが向いてるのかなぁ。身近なものをもっと可愛く、と。それがぼくのオリジナリティなのかも知れないね」

 

だから彼は、サロンワークに帰ってきた。そう、私は思った。

しかもそのサロンは、ビジネス空間というより、生活空間の延長線上に在る。

 

彼の今後のプランはまず3月、青山に出店すること。

やがてパリとニューヨークにサロンを開くこと。

なぜならパリは2年間住んでいた街であり、ニューヨークは現在、生活の4分の1を営む街だから、である。

 

「身近なものじゃなくて、全く違うことをやんなきゃいけないんだ、と思ってるから。それがオリジナリティだと思うから、みんなオリジナリティにたどり着けないんじゃないのかなぁ……」

 

彼の、最後のつぶやきは、「書き手としてのオリジナリティ」というコトバに翻弄され、惑いつづける私自身の人生を、直撃した。

 

 

ライター 岡 高志

 

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