DaB八木岡聡 創造者、降臨。【GENERATION】雑誌リクエストQJ1999年2月号より
共創。–Collaboration-
八木岡聡は、サロンワークを愉しんでいる。
その理由を問いつづけていくと、もうひとつのキーワードがこぼれ出た。
コラボレーション、である。
「お客さんと対峙するといっても、ぶつかってるわけじゃないんですよ。今はもう全然ぶつからない。でもね、たとえば3回に1回くらいは期待を超える仕事ができるわけじゃないですか。お客さんの期待に対して。すると次に来る時、その人が新しい服を買って、雰囲気変わって来たりする。そういうのをきっかけにお互いにまた考えていくことができる。それが楽しさだよね。そういうのはコラボレーションになるから」
コラボレーション。つまり共同作業。
この言葉は主に、アーティストの間で頻繁に使われる。
たとえばヘア・デザイナーとフォトグラファー。
お互いにプロとして認め合った個性が、ひとつの作品づくりでぶつかり合う。
それぞれの技量と感覚をぶつけ合って、お互いの期待をはるかに超える作品を生み出す。
彼自身、それは作品づくりの現場で何度となく繰り返してきた至福の作業であるはずだ。だが、その作業さえ彼はサロンワークの愉しみのひとつとしてしまう。
「お客さんとコラボレーションができることってすごく大事だと思う。たとえば他の美容室に行って、お客さん自身がここは何センチ切って、この写真と同じようにして、と言うとするでしょ。そんな仕事じゃおもしろくもなんともないわけですよ。自分の感覚をそんなにいいと思ってるのか、と思う時だってあるから。だからこそ何が似合うか言って欲しい、と。相手も思ってるんだけど、美容師によっては言ってくれない人もいるから雑誌持っていくってこともあるけど」
つまり、お客さんとのコラボレーションは対話から始まる……。
「いや、ぼくは決めてるから。決まってるから。自分としてはこうしたいと決めてるから。だけど、困ることもありますよ。服にしてもそんなに特徴ないし、なんか別に……という時に困っちゃうだけで。でもね、いろいろ話していく間に、あ、なんか笑顔がステキだなぁとか、あ、素直そうないい人だなぁと思えば、考えるわけ。素直でいいのかなぁ。いや少しだけ妖しげに創ってあげた方がちょっといいかも知れないとか。今まできっと爽やかに切られてる人と出会うと、そのままじゃスポーツ系の感じになっちゃうかも知れないから、もうちょっと雰囲気を創ってあげようとか。確かにうっとうしいけど、ちょっと前髪残しといてあげた方がいいんじゃないかとか。そういうことは考えますよ。それがまず楽しい。それで、お客さんが次来る時、変わっちゃうことがある。ウン、変わる。そういうのを味わえることが自分にとってすごくうれしいですよね。お客さん、変わるんですから。まず服は変わりますよ。お客さんが一所懸命、自分でコーディネートして、いいかなぁと思う服を着て、ここに来てくれることはすごくうれしいですよ」
その時、彼は褒める。
素直に、褒める。
「いい感じだよね」と。
プロに褒められた瞬間に、その人は一段階、階段を上がる。
スピリットが増幅される。
つまりその人自身の魅力の向上に自分が関わっていること。
それが愉しみのひとつなのである。
そして彼にはもうひとつのたのしみがある。
スタッフとのコラボレーション。
「スタッフを選ぶ眼も必要だけど、大事なのは環境をつくることだと思う。ぼくは家具も内装も全部、イージーチョイスの在りモノじゃなくて、自分で描いて、創ってもらってるから高価なものになってしまう。だけど、同じヘアをつくる環境でも、そういうものの中にいることがクリエイションの環境ではないかと思うんだよね。もちろんDaBはビジネス空間にもなっているんだけど、その前に、まず自分たちがクリエイティビィティを高めるための空間にしたい。またぼく自身もそういう存在でいたいし、そういう人たちを集めたい。そうすれば、いつの間にかコラボレーションができる。やっぱり最終的には人ですよ。ぼく自身も含めて人。ぼく自身が選んだ人を、その環境の中に放り込む」
『DaB』は、まさしく創造の空間である。
彼自身が描いたイメージを手づくりした家具類と、フランス人の彫刻家の手によるオブジェ群。
セット面の間隔は驚くほど広い。
頭だけがアメリカナイズされた日本人の、若い経営コンサルタントなら即座に叫ぶだろう。
「効率が悪い」と。
「だけど効率を考えると、気持ち悪いんですよ。飽きちゃう。自分の仕事を愛してるから。これをずっとやりつづけるには、効率だけだとダメなんですよ。自分が飽きちゃう。仕事に飽きちゃうのは自分にとって一番不幸なことなんですよ。だからこの空間は、お客さんのためというより、自分自身のため」
やはり彼は自分自身にこだわっていた。
ヘア・デザインは自分の好み。サロンの空間づくりも自分の好み。
「それがぼくの素ですよ。人ってやっぱりお互いに好みですから。お客さんもその好みを選んでくるわけだから。選ばれなくなったらニーズがないということ。そうでしょ?」
彼は決して時代におもねようとはしない。選ばれようと無理もしない。その自信の根源には何があるのか。