ZACC 高橋和義『終わり』との格闘。【GENERATION】雑誌リクエストQJ2005年7月号より
自分がかけられるパーマ液
さらに、である。『ZACC』のトリートメントには防腐剤が入っていない。
「髪の毛のなかに入れるものに関して、防腐剤は入れたくない。だからウチは各店舗、冷蔵庫が置いてある」
つまり“消費期限”が決められている。
ということは廃棄しなくてはならない場合も出てくる。
「でも、廃棄するくらいだったら練習に使う」
なるほど。だけど他のサロンでも、トリートメントはやってみると髪がつるつる、すべすべになるのだが‥‥。
「それは表面のコーティングがメインになるので、すべりがよくなった気がする、と」
『ZACC』のトリートメントは髪の毛のなかの分子構造を修復するのだ。
しかしなぜ、そこまでこだわるのだろう。
「学生時代、美容室に行くじゃないですか。パーマをかけるでしょ。すると必ず火傷をするんです」
やけど‥‥。
「かぶれるんですよ、頭皮が」
皮膚が弱い‥‥。
「アトピーですから。アトピー性皮膚炎というのは、基本的には乾燥肌なんですね。皮脂の分泌量が足りていないところへダイレクトに薬がくるとかぶれてしまう。だから何より自分がかけられるパーマ液、自分ができるようなカラーとか、そういうことを考えるんです。だからお客さまに、しみるけど我慢してとか、そういうことは絶対に言えない。でもあの痛さを知らない人はわからないんですよね」
彼の原点は、そこにあった。
髪の毛はもちろん、地肌も傷めない技術。
「カラーリングでもハケを寝かせれば地肌についちゃうから、ハケを立てて塗ってくださいとか、毛束を立てて塗ってくださいとか。そういう細かいこともうちの技術なんです」
なるほど。だから練習量は自然に増える。
「髪の毛ってのは斜めに生えてますから。その斜めに生えてるものに対して、どうスライスを取れば髪の毛がきれいに割れるかとか、そういうことを教える。だからずっと続くんだよね。カットまでね」
しかもそれはすべて人頭である。ウイッグでは、その感触をつかめない。
「たいへんですよね。だけどこれがたいへんだと思ったら、ウチには来られない。来ても残れない」
新卒で、憧れて入ってくる人。その多くは雑誌に掲載される『ZACC』の作品に共感して、門を叩く。ところが、入ってみるとそのヘアデザインのために、膨大な量の学ぶべきことがあるという事実に気づくのだ。
「早くて3年。時間がかかる人は6年目で合格なんてこともあります。でもそれを少しでも縮めるように、アカデミーというか、短期講習のような集中講義を考えています」
『ZACC』で学ぶのはカット、カラーにパーマやトリートメントだけではない。ネイルはすでに商品化されているし、メイクを学んで撮影に関わる道。ウエディング・ヘアメイクへ進んで、お客さまの花嫁支度を受けることもある。出張は不可能なので、結婚式当日の早朝、サロンに来ていただくのだという。
撮影の仕事はたとえば朝の9時半。その時刻にはシャッターが開く状態にする。それが『ZACC』の掟だ。さらに撮影スタッフが早朝8時にサロンに入ると、調理スタッフはすでにみんなの食事の準備をしているのだという。
技術はいつまでも完成しない
100人に達するスタッフを擁し、青山の、そして日本の美容界のトップを疾走する『ZACC』。その舞台裏は、並々ならぬ情熱に満ちあふれ、並み外れた努力の日々が繰り広げられている。
「予約が入っていると、仕事しようって思いますよね。やっぱりお客さまがいるから出てこられる」
出てこられるって、お店に?
「サボりたいなぁ〜、今日は行きたくないなぁ〜っていったときに‥‥」
そんなこと、高橋さんも思ったことあるんですか?
「年中ありますよ。美容師さんって、やっぱりお客さんがいるから仕事するし、努力する。でも、じゃあそのお客さんをどうやって増やすか。ここに来たらなんか楽しい、というような楽しさで呼ぼうっていう人もいると思う」
「だけどぼくは、お客さまを楽しくするキャラを持ってないんで。そうなるとウチのこだわりに共感してくれるお客さまを集めるしかない。もし、そのこだわりの進化が止まったら、お客さまも離れていくのは当たり前ですよね。こだわりで勝負するなら、技術の進歩というものが見えないといけないわけじゃないですか」
確かにそうだ。しかし、それはつらい。進化しつづけるのは、つらい。
たとえばある程度“完成した技術”があれば、あとはバリエーションで食べていける。今までやってきた経験から引き出す技術で、お客さまに似合う髪型はつくれる‥‥。
「そういう言い方、する人いますよね。ただ、ヘアスタイルっていうのは時代と共に変化するんですよね。トレンドを無視してはいられないんです。青山でトレンドをはずしたら、前には進めないんですよ。青山にいれば情報を発信できるし、ぼくは美容師としてトレンドを、みなさんに混じってここから発信してるって思ってる。だけど、たとえウチがこだわってることを前に出したからって、トレンドに合わなければ時代と共に消えていくんですよ」
消えていく‥‥。
「こだわりも、かたちを変えないでやっていたとしたら1回はわっと視線が集まる。だけど次のトレンドが来たら、次に行くんですよ、お客さまって。メーカーも進化してますから、つねに勉強していないと他のお店でダメージを受けた髪に対処できなくなる。だから技術に完成なんかないんです」